SFAを入れる前に決めること——営業の行動管理は、何から手をつけるか

「営業は個人に任せていて、正直あまり管理できていないんです」

先日、そんなご相談をいただきました。SFA(営業支援システム)を、本当にゼロから入れようとしている会社です。

40年ほど前には、数を稼げば、足で稼げば売上が上がっていく時代がありました。その頃からやってこられたベテランの方が、勘とさじ加減で仕事を取ってくる。長いあいだ、それで回ってきた会社です。

私が社会人になったのは2001年ごろなので、その時代を直接知っているわけではありません。それでも当時はまだ、ひと月に靴を一足履きつぶすのがいい営業だ、という空気は残っていました。ビル倒し、という言葉もありました。一つのビルを、上から下まで片っ端から訪問する。営業の方が普通にそう言っていたのを、よく覚えています。

そのベテランが、いま引退の時期を迎えています。残っているのは、若手が毎回、上に聞いてから動くという状態でした。これも本当によくある話です。

営業の行動管理は、この順番で手をつけます

先に、全体の順番を書いておきます。

順番やることなぜ、それが先か
1ベテランのやり方と、現場の言い分を聞く引退が先に来る。揃える材料そのものがなくなる
2やりたくない、を言える空気を作る本音が出ない場所では、この先が全部上っ面になる
3どこへ行くかを会社が決めて、宣言する決めないと、足の向くところだけで一日が終わる
4行きたくない先は、仕組みで埋める気持ちの問題にすると、そこで止まる
5やったかどうかを、毎週数える決めただけでは動かない

ツールを選ぶのは、このあとです。

ベテランのやり方は、引退される前に言葉にしておく

ここで言葉にしたいのは、ビル倒しのやり方そのものではありません。あれを書き残しても、いま使える場面はほとんどないと思います。

引き継ぐ値打ちがあるのは、その時代から始めて、いまのやり方に合わせて工夫してきた部分です。同じ時代を通ってきた方でも、当時のまま止まっている人と、少しずつ変えながら今も数字を出している人がいます。後者の方が自分の中でやってきたことは、たいてい本人にとって当たり前になっていて、言葉になっていません。

勘とさじ加減で取れている、と言われるものの中身は、たぶんそこです。だから、そのやり方を否定する必要はまったくありません。ただ、そのままでは渡せない。 だから若手は、毎回その人に聞きに行くしかありません。

この仕事には、締め切りがあります。 引退の時期は、待ってくれません。

営業の属人化は、全部なくせばいいわけではありません

こういう話になると、たいてい「属人化を標準化しよう」という方向に進みます。

ただ、何でも標準化すればいいかというと、そうでもないと思っています。人それぞれに合ったやり方は、どうしてもあります。個性を潰してしまうのも、違います。 最近、そこはすごく感じるところです。

合わせるところは合わせて、合わせないところは合わせない。この線を引くために、プロセスの設計より前に、現場の意見を吸い上げます。

訪問先の駐車場に停めた車の運転席で、手帳を開いて次の行き先を確かめている

その前に、「行きたくない」と言える会社かどうか

現場の意見を吸い上げましょう、とはよく言われます。ただ、出てきたものが本音かどうかは別の話です。

行きたくない。やりたくない。正直、めんどくさい。こういう言葉が出てこない場所では、この先が全部上っ面になります。

きれいな言葉しか出てこない会議では、出てくる課題もきれいなものだけになります。そして、きれいな課題に対して打った手は、たいてい効きません。

だから、いちばん最初の段階で、その空気を崩しておきます。あとからでは崩れません。

順番に聞いても、本音は出てきません

大勢がいる会議で、上司も同席していて、「みなさんどうですか。Aさん、Bさん」と順番に聞いていく。この形では、まず出てきません。 何度やっても出てきません。

出てくるのは、ランチや雑談をしているときです。夜の会食まではなかなか難しいとしても、その手前くらいの場です。

私がよくやるのは、自分から先に開けることです。前に働いていたところの話や、いま入っている先での話として「こういうの、ちょっと不満ありますよね」と、こちらから言ってしまう。そうすると、相手からも出てきたりします。

少しでも出てきたら「そうですよね」と受ける。ここで正論を返さないことです。「行くのが仕事でしょう」と返した瞬間に、その人はもう二度と言いません。集め方も、全員から均等にではなく、話してくれそうな人から攻めていきます。

ただ、どう出てくるかは本人の性格によりますし、いちばん大きいのは会社の文化です。空気を崩すというのは、文化を変えることではなく、言っていいんだと分かってもらうことだと思っています。

行きたくない、が出てきたら、そこからが本番です。

営業が「行きやすいところ」に行くのは、当たり前です

足が向くのは、話しやすいお客さま。仲のいいお客さま。行けば歓迎してくれるお客さまです。

逆に足が向かないのは、気を遣う相手、話が重くなる相手、前回うまくいかなかった相手。

そして困ったことに、会社として特に重視したいお客さまほど、そちら側にあります。 長く付き合いたい先、金額の大きい先ほど、要求も細かく、行く前に準備がいるからです。新規を開拓するより、いま取引のある先から別の仕事をいただくほうが楽だ、という感覚も同じです。

これは、営業担当の性格の話ではありません。一日の時間の使い方として、誰でも自然にそうなります。私も同じです。

管理していないと、この偏りは誰にも見えません

訪問の記録が残っていないと、今月、会社として特に重視したいお客さまに何回行ったのか、誰も答えられません。責められないのは、そもそも見えていないからです。

しかも、数字が上がっている月もあります。だから問題として立ち上がらないまま、行きやすい先だけが回り続けます。

行動を記録するのは、営業を疑うためではありません。偏りを、本人と会社が同じものとして見られるようにするためです。入力させるのではなく、見えるようにする。 ここが入れ替わると、SFAは使われないまま置いてある道具になります。

だから「どこへ行くか」は、会社が決めます

決めるのは、会社の側の仕事です。個人の頑張りに預けない。

たとえば、全営業活動の2割は新規獲得に充てる、というように割合を決めてしまう。この2割という数字自体に、意味はありません。何をどれだけやるかは、その会社の戦略と、いまの状況で変わります。大事なのは、会社が割合を決めて、それを口に出すことです。

クォーターごとでかまいません。方針を決め、宣言して、やったかどうかを評価に乗せる。ルート営業でも同じで、行きやすいところではなく、行くべきところに行く。

行きたくない先は、根性ではなく仕組みで埋める

さきほどの「行きたくない」が言えていれば、ここから先は仕組みの話になります。

休眠のお客さまや、一度お断りされたお客さまには行きたくない。これも当然です。無理やり行かせてもいいのですが、仕組みでカバーできるならそのほうがスムーズです。別の人が行く。メールでフォローする。

できないことを無理やりやらせることだけが、正しいわけではありません。言い訳もちゃんと聞いて、本当にやらないほうがいいなら、やらない。ただ、言い訳をして行かないだけなら、それは機会損失です。

決めたことを、毎週うやむやにしない

行くべきところを指示したら、みんな守れましたか、を毎週の営業会議で確認します。上も、そこから逃げてはいけません。 現場も、言い訳で逃げない。緩い目標でかまわないので、うやむやにしないことのほうが、細かい設計より先です。

失注分析は、営業のせいにしないところから

失注したものには、誰も向き合いたくありません。取れなかった、しょうがない、で終わるか、なんでちゃんとできなかったんだ、になるかのどちらかになりがちです。

けれども、敗因が営業担当のせいじゃない場合も、結構あります。

  • 商品そのものが弱かった。他社の商品のほうが、そのニーズに合っていた——市場に合わせているのは向こう、ということです。営業ではなく、商品の問題
  • 競合に取られた——そこの分析をする
  • やり方がまずかった——改善して、次に活かす
  • 価格——「価格です」で片付けずに、歩み寄れないかを一度は考える
  • いろいろ聞いたけれど、よく分からなかった——これも、正直にそのまま残しておきます

最後のひとつは、無理に理由をこじつけて分類すると、記録そのものが嘘になるからです。

価格が敗因なら、切り売りできないか、別のサービスを付けて価値を高められないか。高くてもうちはこれでいく、という方針ならそれでいい。ただ、うちは高いから取れないんですよね、で終わるのとは別の話です。

「一旦保留」というステータスを作る

見積もりを出したあと、返事が来ないまま止まっている。失注ではないけれど、動いてもいない。そういう案件があります。

多くの会社で、これがリストの中に生きたまま残ります。毎週の会議で名前だけ読み上げられて、誰も何もしない。

そこで、一旦保留に落とします。 諦めるためではありません。いま動いている、勢いのある商談にきちんと手を回すためです。

落とすことと、捨てることは違います。保留の案件は消えるわけではなく、あとでまとめて拾う対象になります。

誰も見ていないのは、後ろです

営業が向かうのは、いま取引のある先。会社が言うのは、新しい先。誰も見ていないのが、一度つながって止まった先です。

さきほど保留に落とした案件、見積もりを出したら返事が来なくなったお客さま、一度商談したけれど煮え切らなかったお客さま。

こういう方たちに、定期的にキャンペーンなどでまとめてフォローすると、取れることが割と多いです。ご相談をいただいたとき、まずここからやると受注が上がる。これは私たちが体感として持っているものです。

揃えるのは行き先。揃えないのは、行き方

何を標準化して、何を標準化しないのか。私の答えは、こうです。

どこへ行くか、何を優先するか、やったかどうかを確認すること。ここは、会社が決めて揃える。

どう売るか、どう関係を作るか。ここは、揃えない。

SFAは、営業を縛るための道具ではありません。会社がどこへ行くかを決めて、決めたことを確認するための道具です。個性は、行き方のところにちゃんと残ります。

聞いて、決めて、数える。私がやっているのは、だいたいこの順番です。

ポイント

  • ツールを選ぶのは、いちばん最後。 聞く、決める、数える、が先です
  • 営業の属人化を、全部なくす必要はありません
  • 順番に聞いても、本音は出てきません。 場を変えて、こちらから先に開けます
  • 行きやすいところに足が向くのは、当たり前。 性格ではなく、見えていないだけです
  • 行き先を決めるのは、会社の仕事。 割合を決めて、口に出して、確認します
  • 失注の敗因は、営業のせいとは限りません。 分からなかったものは、そのまま残します
  • 一旦保留を作ると、いま勢いのある商談に手が回ります

営業の状況が見えないという場面については、営業が属人化していて、状況が見えないのページにも書いています。

事例は、事業者さんが特定されないよう表現を変えています。

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