名寄せとは何か、そしてなぜ終わらないのか

「あの人、仕事が遅いんですよね」

顧客管理のお手伝いをしていると、ときどきこういう評価を耳にします。そして実際に何をされているのか見せていただくと、その方は名寄せをしていることがあります。

誰に頼まれたわけでもなく、やったほうがいいと思って、自分の時間を使って。

今日は、その作業の話です。

名寄せとは、同じ相手のデータを一つにまとめる作業です

名寄せとは、複数の場所に散らばって登録されている同じ顧客のデータを、一つにまとめることをいいます。顧客データの重複を片づける作業、と言い換えてもいいと思います。

なぜそれが必要なのか。ひとつ例を挙げます。

同じ会社の同じ担当者さんが、システムの中に2件登録されているとします。すると、その方に紐づく活動の記録も、2件に分かれてしまいます。

本当は10回訪問しているのに、検索して先に出てきたほうのデータには、2回分の履歴しか入っていない。

これを見た人は、まだ関係の浅いお客さまだと判断します。実際には何度も足を運んで、関係ができている相手なのに、です。

顧客管理のツールは、記録と記録がつながっていて初めて意味を持ちます。誰にいつ何をしたか、その積み重ねが見えるからこそ、次の一手が決められる。つながりが切れたデータは、入っていないのとあまり変わりません。

冒頭の几帳面な方は、これを嫌っていたのだと思います。

手順そのものは、4つしかありません

一般的な進め方を先に書いておきます。どこで調べても、だいたい同じ4段階で説明されています。

段階やること
① 調査どのシステムに、どんな形でデータが入っているかを把握する
② 抽出突き合わせる対象のデータを取り出す
③ クレンジング表記のゆれを整える。全角と半角、株式会社の位置、余分な空白など
④ マッチング同じ相手だと判定して、統合する

③のクレンジングと④の名寄せは、混同されやすいので分けて書きました。クレンジングは一件ずつのデータを整える作業で、名寄せは整えたデータどうしを突き合わせて、同じ相手をまとめる作業です。順番としては、クレンジングが先です。

手順としては、これだけです。

そして、ここまでは私が書かなくても、いくらでも読めます。問題は、この4つのどこにも書かれていないところで、作業が止まることです。

止まるのは、手順ではなく判断のところです

実際に手を動かしていただくと、必ずこういう場面が出てきます。

住所が違う2件が見つかった。 ホームページを見て移転が確認できれば、新しいほうに直せます。けれども確認できないとき、どうするか。片方に寄せるのか、重複したまま2件残しておくのか。

「店舗」と「会社」の両方が登録されている。 実際に営業が回るのが店舗のほうである場合、この2つをどう紐づけるのか。会社を親にして店舗をぶら下げるのか、それぞれ独立させるのか。

住所を全角で入れるのか、半角で入れるのか。 細かい話に聞こえると思います。けれども、ここが決まっていないと、直した先からまたゆれたデータが積み上がっていきます。

どれも、正解が一つに決まる問題ではありません。その会社がどう営業しているかによって、答えが変わります。

そして、たいていの場合、この方針は決まっていません。決まっていないので、現場の担当者が一件ずつ迷いながら判断することになります。迷ったところで手が止まり、止まったぶんだけ時間がかかる。 冒頭の「仕事が遅い」は、こうして生まれます。

だから、ルールブックを作ります

私がこの場面でお手伝いするのは、作業そのものよりも、判断の基準を先に決めておくことのほうです。

  • どちらを正のデータとするか
  • 判断がつかないものを、どこに置いておくか
  • 誰が最終的に決めるか
  • 入力するときの表記をどう揃えるか

こういうことを一つずつ決めて、書いたものにしていきます。ガイドラインでもルールブックでも、呼び方は何でもかまいません。大事なのは、現場の人が迷ったときに立ち返る場所があることです。

これがないと、二つのことが起きます。ひとつは、判断がつかなくて作業が止まること。もうひとつは、直したそばからまた汚れていくことです。

きれいにしても、また汚れます

これは本当によくある話なので、はっきり書いておきます。

一度きれいにしたデータは、放っておけば必ずまた汚れます。

営業の方は、新しいお客さまと接点ができたら、その場でシステムに入れます。それ自体は正しい行動です。ただ、既に登録されているかどうかを検索せずに入れる人が出てくると、そこからまた重複が増えていきます。

せっかく時間をかけて片づけたのに、半年後に見たら元の状態に戻っている。この繰り返しを、私は何度も見てきました。

名寄せは、一度やって終わりの作業ではありません。汚れ続ける前提で、どう設計するかの話です。

「登録する前に申請してもらう」は、うまくいきませんでした

では、汚れないようにするにはどうするか。

いちばん素直な答えは、入り口を絞ることです。 実際にそういう運用をとっている会社は、いくつもありました。

新しい取引先を登録したい人は、まず申請を出す。特定の部門の担当者が、既存のデータをきちんと検索して、重複がないことを確認する。一意だと分かったものだけを登録する。

理屈としては、完璧です。これならデータは汚れません。

けれども、私が見てきた範囲では、この形はほとんど続きませんでした。

理由は単純です。営業の方は、今日会ってきたお客さまとの会話を、今日記録したいのです。ところが承認が3日後になると、その頃には話した内容の細部を忘れています。

そして困るのは記録だけではありません。メールの送信も、次のアクションの設定も、すべて顧客のデータに紐づいています。登録されるまで、その人に関する仕事が全部止まってしまう。

正しさを優先した設計が、現場を止めてしまう。これは、冒頭の「几帳面な人が仕事が遅いと言われる」のと、同じ形をしています。個人のレベルで起きていたことが、組織のレベルで起きているだけです。

結局、「作ってから直す」という運用に落ち着くことが多いです。 きれいでない状態を許容したうえで、後から直す前提で回す。

歯切れの悪い結論だと思われるかもしれません。けれども、会社の実態と規模に合わせないと、どんなに正しい仕組みも回りません。ルールだけ決めて、一部の人だけが何となく守っている状態が、いちばん良くない。 そして、それがいちばんよくある状態でもあります。

オフィスの机で、画面を見ながら手元のノートに書き込んでいる人の後ろ姿

ツールを増やしたことで、余計にバラバラになる

もうひとつ、よくご相談をいただく形があります。

受発注のシステム、顧客管理のシステム、マーケティングの配信ツール。それぞれ目的があって、それぞれ良いものを選んで導入した。ところが、顧客の情報がその数だけ分かれてしまった。

とくに配信ツールに入っているデータは、荒れがちです。フォームから入ってきたものがそのまま溜まっていくので、法人格が付いていなかったり、部署名が会社名の欄に入っていたりします。

一つひとつのツールは正しく動いています。ただ、同じお客さまが、システムの数だけ別人として存在している。

やり方はいくつかあります。どこか一つを顧客データベースの中心と決めて、そこに全部を紐づけていく形が、比較的とりやすい方法です。ただ、これも先に「何を正とするか」を決めていないと進みません。結局、同じところに戻ってきます。

決めるべきは、重複だけではありません

もう少し先の話もしておきます。名寄せを進めていくと、そもそもの管理の単位をどうするか、という問題にぶつかります。

部門で分けるか、会社で分けるか。 大手数社を中心にお取引されている会社の場合、企業単位で管理すると「取引先が3件」という台帳になってしまいます。それでは営業の実態が見えません。この場合は、部門単位で持つ必要があります。

階層をどこに持たせるか。 たとえば介護施設をお客さまにしている事業者の場合、一つの法人がいくつも施設を持っていることがあります。施設ごとに担当者も予算も違うので、別々に管理したい。すると、法人と施設という階層をどこかに持たせることになります。ここのルールが徹底されないと、あるデータは法人で、あるデータは施設で登録されていて、集計ができなくなります。

請求先と営業先が違う。 請求書を送る先と、実際に足を運ぶ先が別、ということはよくあります。これをどう登録するか。

どれも、システムの機能の話ではありません。その会社が、誰を顧客と呼ぶかという話です。

速さと、正しさ

最後に、この話の一番むずかしいところを書いておきます。

営業の現場には、スピードが要ります。今ほしいデータが、今すぐ使えないと意味がない。 3日後に整ったデータが出てきても、商談はもう終わっています。

一方で、データは正しくないと使えません。間違った履歴を見て判断すれば、冒頭の例のように関係を読み違えます。

この二つは、どこまでいっても引っ張り合います。

そして、動いているデータを扱う以上、「ある日から100パーセントきれいになります」ということは、まず起きません。 会社の統廃合も、担当者の異動も、こちらが知らないところで日々進んでいます。判明したものから順に対応していくしかない。ここが本当に大変なところです。

だから私は、方針が決まっていない段階でも、とりあえず名寄せはしておいたほうがいいとお伝えしています。完璧な設計を待ってから始めると、待っている間にもデータは増え続けます。手間もコストもかかりますが、つながっていないデータを抱えたまま進むよりは、ずっといい。

そのうえで、実例を並べて「現場ではどう運用するか」を決めていく。この工程は、どうしても省けません。

これは名寄せに限った話ではなくて、商談のステージをどう定義するかなども同じです。顧客管理では、決めなければいけないことがたくさんあります。名寄せは、その中でも大きなテーマの一つだと思っています。

ポイント

  • 名寄せとは、複数の場所に散らばった同じ顧客のデータを一つにまとめる作業です。 記録がつながっていないと、10回訪問した相手が2回の相手に見えます
  • 手順は4つ(調査・抽出・クレンジング・マッチング)しかありません。 クレンジングは一件ずつ整える作業、名寄せは整えたものを突き合わせる作業です
  • 止まるのは手順ではなく、判断のところです。 住所が違う2件をどうするか、店舗と会社をどう紐づけるか。正解は会社ごとに違います
  • だから、判断の基準を先に決めて、書いたものにします。 どちらを正とするか、判断がつかないものをどこに置くか、誰が決めるか
  • 一度きれいにしても、必ずまた汚れます。 検索せずに登録する人が出た時点から、また重複が増えていきます
  • 申請制で入り口を絞る形は、ほとんど続きませんでした。 承認を待つ間、その顧客に関する仕事が全部止まるからです
  • 結局「作ってから直す」に落ち着くことが多いです。 会社の実態と規模に合わないルールは、回りません
  • ツールを増やすと、同じお客さまがシステムの数だけ別人になります。 どこを中心に置くかを決めるところから始めます
  • 決めるべきは重複だけではありません。 部門か会社か、階層をどこに持たせるか、請求先と営業先が違うとき。どれも「誰を顧客と呼ぶか」の話です
  • 営業には速さが要り、データには正しさが要ります。 この二つは引っ張り合います。ある日から100パーセントきれいになることは、まず起きません
  • 方針が決まっていなくても、とりあえず名寄せはしておいたほうがいいです。 待っている間もデータは増え続けます

顧客データが分散していて全体像が見えない、というご相談はこちらのページにも書いています。ツールの選び方についてはCRM・顧客管理ツールを選びたいをご覧ください。

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