届いてほしい人は、3歩手前にいる——顧客視点が抜け落ちるとき

紹介で来てくださるお客さまは、ちゃんとついている。ただ、この先もう少し広げたい。そう思って自社のサイトを見直すと、ズレが見えてくることがあります。

今日は、そのズレの話です。

紹介では届いていた人に、検索では届かない

あるレッスン教室のお話です。

体を動かしながら、言葉で自分の内側を見ていく。そういう本格的なスタイルのレッスンをされています。先生が以前、大きな教室で教えていた頃の生徒さんや、そのやり方が合っていた方が、紹介でつながって集まっている。お客さまは、しっかりついています。

ここから先、もう少しパイを広げたい。紹介だけではなく、検索で見つけてもらったり、Webで新しい接点を作ったりしたい。そう考えたときに、ズレが出てきます。

一般的なイメージで検索して入ってくる人のニーズは、「とにかく体を動かしたい」「動きをきれいにしたい」のほうに寄りがちです。それ自体は自然なことです。

けれども教室の側は、そういう方をいちばんのターゲットにしているわけではありません。むしろ来てほしいのは、引きこもりがちな方。感情的になりやすくて、日々の生きづらさや人間関係に困っている方。その人たちにこそ、このレッスンが効くと先生は思っておられます。

書いてあることが、3歩先すぎる

そうだとすると、いまのサイトに書かれている内容は、レベルが高すぎる可能性があります。抽象度が高すぎる、と言ったほうが正確かもしれません。

現実の世界で「怒りっぽい」「生きづらい」と感じている人に見えているのは、目の前の「怒りやすい」「困っている」という直接的な悩みだけです。それを自分の内面のどこから来ているのか、まで見えている人は、ほとんどいません。見えていたら、もう半分は解決しています。

ところがサイトのほうには、そこから3歩くらい進んだ、深い内省の話が書かれている。書いている側にとっては当たり前の話でも、読む側はついていけません。 ついていけないと、自分のことだとは思えない。自分のことだと思えなければ、問い合わせには進みません。

こうして、本当に来てほしい人への訴求が、いちばんズレてしまいます。

これが、顧客視点が抜け落ちている状態だと私は思っています。

顧客視点というと、お客さまの言うことを何でも聞く、お客さまを神様のように扱う、という話に聞こえるかもしれません。そういう話ではありません。届いてほしい相手が、いま何を見ていて、何に困っているのかを、具体的に想像できているか。 それだけのことです。

悩みの言葉は、すでに手元にあります

では、その人が何を見ているのかを、どこで知るのか。

実は、材料はたいてい手元にあります。

ひとつは、Google Search Console の検索キーワードです。自分のサイトに、どんな言葉で人が来ているのか。あるいは、表示はされているのにクリックされていない言葉は何か。そこには、こちらが想定していなかった悩みの言い方が、そのまま並んでいます。

もうひとつは、営業や接客の対話です。最初の問い合わせのとき、お客さまは自分の言葉で困りごとを話します。その言葉は、サイトに書いてある言葉と、たいてい違います。この最初の言葉を、顧客管理の記録に残しているかどうか。 残っていれば、あとから並べて見返せます。残っていなければ、担当した人の記憶の中にしかありません。

材料はある。それなのに、「届いてほしい人の視点」だけが抜け落ちているケースが、本当に多いと感じています。自分たちのこだわりや、たどり着いた深さのほうが、どうしても先に出てしまうからです。

紙袋屋さんの場合

もうひとつ、別の事例を挙げます。以前「うちはただの紙袋屋です」と言っていた社長さんの話として書いた会社です。

特殊な加工ができる、小ロット対応の紙袋屋さんです。機械を使う一般的な工場ではできない繊細なデザインや、袋に窓を付けるような加工ができる。だから、デザイナーさんからの受注がメインになっています。

この会社が「デザインがきれいです」と打ち出してしまうと、少し視点がズレます。きれいなのは事実です。でも、デザイナーさんにとって嬉しいのはそこではありません。

自分のこだわったデザインを、そのまま形にできること。 そして、ほかの工場で断られたときの、最後の砦になってくれること。 これが本当の強みで、お客さまにとって嬉しいポイントです。だから、探すべき検索の言葉も、そこを踏まえたものになるはずです。

夕方の通りに面した小さな店の入り口。ガラス戸の向こうに灯りがともり、手前の歩道に立て看板が出ている

入り口が違えば、伝えることも違います

この紙袋屋さんのターゲットは、大きく2つに分かれます。

誰が何に困っているか入り口の言葉
デザイナー自分のこだわりを形にしたい。特殊な加工を実現したい加工の名前、紙の名前、「断られた」
店舗のオーナー(新しくアパレルショップなどを開く方)ただきれいな紙袋がほしい。自分の店らしい紙袋を作りたい「おしゃれな紙袋」「オリジナル」「小ロット」

店舗のオーナーさんはデザイナーではないので、問い合わせがあったらデザイナーさんを紹介して、一緒に進める形になります。

デザイナーと店舗オーナーとでは、入り口も、抱えている課題も、ターゲットとしての層も、はっきり違います。当然、伝えるべきメッセージも、検索して入ってくる言葉も違うはずです。

一つのページに、なんとなく良さそうなことを書いてしまう

ところが実際には、この2つを一つのページにまとめて、なんとなく良さそうなことを、ぬるっと書いてしまうケースが本当によくあります。

誤解のないように書いておくと、それでも何もないよりはずっとマシです。実際に、それである程度の成果が出ていることも多い。

ただ、読んでいる人にとって「自分のことだ」になっていなかったり、どこかにズレを感じたりすると、そこで離脱します。離脱した人が誰だったのかは、こちらには分かりません。 本当に来てほしかった人だったかもしれません。

そう考えると、ターゲットごとに、たどり着けるページを分けるのが効果的です。ランディングページでも、サービスの紹介ページでも、形は何でもかまいません。どこかで課題が共通するなら、リンクでつなげばいい。けれども少なくとも、「この課題を感じている人へ。解決する方法はここにあります」と提示する場所は、分けるべきだと思っています。

すぐに作り変えなくても、違いを言葉にしておく

すぐにサイトを作り変えるという話でなくてもかまいません。

まず、その違いをちゃんと認識できているか。一度、言葉にしておくこと。 これがとても大事です。

私自身は、こういう整理をワークショップのような形式で、一緒に書き出しながら探っていくことが多いです。誰に来てほしいのか。その人はいま何に困っていて、どんな言葉で探しているのか。自分たちの強みは、その人にとって何が嬉しいのか。話しながら書き出していくと、頭の中では一つだった「お客さま」が、2つにも3つにも分かれていきます。

そして、考えたことを後から明文化しておくことも、同じくらい大事です。書き出して、明文化して、実際にやってみて、調整する。このサイクルを繰り返していくことが、遠回りのようでいちばん確かだと思っています。

小さな会社のカスタマージャーニーマップの作り方で書いたことと、根っこは同じです。お客さまがどんな段階で何を考えているかを先に理解して、そのうえで自社が提供できるものを考える。この順番が、届く言葉を決めます。

ポイント

  • 紹介で届いていた人に、検索では届かないことがあります。 検索で来る人のニーズは一般的なイメージに寄るので、いちばん来てほしい人とズレやすいからです
  • サイトの言葉が、相手の3歩先にあることが多いです。 生きづらさを感じている人に見えているのは「怒りっぽい」という目の前の悩みだけ。深い内省の話は自分事になりません
  • 顧客視点とは、お客さまを神様扱いすることではありません。 届いてほしい相手が、いま何を見ていて何に困っているかを具体的に想像できているか、です
  • 悩みの言葉は、Search Console の検索キーワードと、営業の対話の中にすでにあります。 最初の問い合わせの言葉を顧客管理の記録に残しておくと、あとから並べて見返せます。材料はあるのに、視点だけが抜けていることが多いです
  • 強みは、自分たちの側ではなく、相手にとって何が嬉しいかで言い直します。 紙袋屋さんなら「デザインがきれい」ではなく「こだわりを形にできる」「断られたときの最後の砦」です
  • ターゲットが違えば、入り口の言葉も、伝えるメッセージも違います。 一つのページにまとめて、なんとなく良さそうなことを書いてしまうと、自分事にならなかった人から離脱していきます
  • 課題を提示する場所は、ターゲットごとに分けます。 共通する部分はリンクでつなげば足ります
  • すぐに作り変えなくてもいいので、まず違いを言葉にしておきます。 書き出して、明文化して、調整するサイクルを繰り返します

サイトに何を書けばいいか決まらない、というご相談はサイトを更新したいが中身が決まらないに、紹介以外の新しい接点を作りたいという話は1社依存から抜け出したいのページにも書いています。


事例は、事業者さんが特定されないよう一部の情報をぼかしています。

ほかの記事

  • 名寄せとは何か、そしてなぜ終わらないのか

    名寄せとは、複数の場所に散らばった同じ顧客のデータを一つにまとめる作業です。手順は4つしかありません。それでも現場が止まるのは、手順ではなく判断のところです。ルールの決め方、申請制がうまくいかない理由、管理の粒度まで、支援の現場から書きました。

  • 顧客管理システムの見積もりは、なぜ最初に確定しないのか

    CRMやSFA(営業支援システム)の導入で、要件定義のあとに開発費用が上がる。会計ソフトなら先に金額が出せるのに、顧客管理では出せないのはなぜか。競争領域と非競争領域という切り分け、概算見積もりと正式見積もりが分かれる仕組み、後から出てくるものの型、Fit to Standardが通らない場面を、支援の現場から書きました。

記事一覧へ →

まずは一度、話してみませんか

「何から手をつければいいか分からない」の段階でかまいません。現状をうかがって、優先順位を整理するところからご一緒します。初回のご相談に費用はいただいていません。

お問い合わせはこちら