なぜ本音から始めると成功するか
知らない間に誰かが決めたツールは、しぶしぶ使われます。自分の本音が入ったツールは、自分の仕事になります。
「知らない間に、誰かが決めたツールが入ってきた」
現場の方がそう感じているとき、そのツールは、しぶしぶ使われます。入力は続かず、溜まったデータに誰も興味を持ちません。
似た形は、選ぶ前にも起きています。会議で「あれもやりたい、これもできる」と要件が膨らみ、誰も反対しないまま通る。安全やセキュリティの「何かあったらどうするんですか」でルールが増え続け、仕事が回らなくなる。会議で決まったはずのことが、翌週には動いていない。
私はこれまで、顧客管理(CRM)を中心に、ツールの選定と定着に数多く立ち会ってきました。その中で、こう思うようになりました。
ツール選定の失敗は、ほぼすべて、本音が出なかったことで起きる
このページでは、その裏返しを書きます。本音から始めると、なぜうまくいくのか。
先に、ここで言う「成功」を決めておきます。売上が何倍になる、という話ではありません。3つです。
- 決めたことが、決まったまま進む。普段は意見を言わない人の声まで先に出ているので、「これも必要だった」が後から出にくく、見積もりが途中で膨らみにくい
- 入れた仕組みを、現場が自分の仕事として使い続ける
- 次にツールを選ぶとき、自分たちで選べる
「面倒くさい」と言った人が、いま一番入力している
ある支援先の営業チームの話です。
ITは苦手だ、とご自身で言う方がいます。そして営業成績は、チームでも指折りです。
CRMを選ぶ会議で、話は「あれもやりたい、これもできる」と広がっていました。そのとき、その方が言いました。
「面倒くさいことはやりたくない。ITも苦手だし、自分たちにとって一番大事なのは営業活動そのものだ」
その方はいま、率先して入力しています。毎回の会議では「面倒くさい派の代弁者」のような立場で、効率的に使いたい人の意見も尊重しながら、「でも自分は、ここは面倒くさすぎると思う」と、生き生きと堂々と言っています。
なぜそうなったのか。それが、このページで書きたいことです。
本音が出ると、自分事になる
上に言われたことを、自分がどう思うかを咀嚼しないまま、従う。日本の会社では、それが当たり前の光景になりがちです。整っている、という良さはあります。ただ、その状態が続くと、組織は少しずつ形だけになり、現場と決めごとが離れていきます。
全員ではありません。でも、「納得いかないけれど、しょうがないからやる」と、心のどこかでくすぶっている人は、どの会社にもいます。その状態のまま入れたツールは、しぶしぶ使われます。定着せず、データに関心が向かない。「知らない間に誰かが決めた」と感じているからです。
逆に、選ぶプロセスの中で自分の意見が吸い上げられていると、関わり方が変わります。関心の向き方も、熱量も、確実に変わります。ナレッジツールのような、比較的軽いものでも同じです。
本音が出ると、そのツールは、自分事になる。
これは仮説ではありません。支援を続けてきた中で、ずっと実感してきたことです。同じ人の「本音を出さなかった未来」と「本音を出した未来」を並べて比べることはできません。でも、違う会社で、二つの型は何度も見てきました。知らない間に決まったツールがしぶしぶ使われる会社と、本音が出て、自分の仕事になった会社と。
情報システムの研究でも、選ぶ過程に利用者が関わると、その仕組みを「自分のもの」と感じるようになり、それが実際の利用につながる、という結果が1980年代から積み重なっています(Barki と Hartwick、1994 ほか)。
却下されても、いい
ここで一つ、はっきりさせておきたいことがあります。
本音を出す、というのは、みんなで決める会社に変える、ということではありません。トップダウンの会社はトップダウンのまま、会議で決める会社はそのままでいい。決め方は、その会社の文化です。
変えるのは、「言えたかどうか」だけです。
自分の意見が最終的に却下されても、きちんとぶつけられたこと自体に意味があります。人は、そこから心を開いていきます。逆に、言う場がないまま決まったことには、正しくても心がついていきません。
これは私の実感ですが、心理学では古くから確かめられていることでもあります。自分の言い分を述べる機会があった人は、結果が自分の望みどおりでなくても、その決定を公正だと感じて受け入れやすい。1970年代に Thibaut と Walker が示して以来、「発言効果」と呼ばれて、組織の研究でも繰り返し確認されています。
先ほどの営業の方も、自分の意見を通しているわけではありません。効率的に使いたい人の意見は尊重する。そのうえで、自分はこう思う、と言う。本音というのは、好き勝手に言うことではなくて、責任とセットで出てくるものです。
要件が、本質に絞られる
営業成績がいい人の「面倒くさい」は、怠慢の声ではありません。お客さまに使う時間を守ろうとする声です。
あの一言で、会議の空気が変わりました。「記録や分析をすることが本題ではない」と、みんなが気づいたのです。議論を重ねて、入力する項目を絞ったシンプルなツールを一旦入れ、将来は拡張できるものを選ぼう、という形で合意しました。
もしあの一言がなかったら、どうなっていたか。綺麗事でまとまりかけた要件は、誰も反対しにくいので、そのまま通ります。「あれもやりたい」が全部入ったままベンダーに渡ると、要件の数だけ見積もりが膨らみます。しかも、要件を詰めていく途中で「これも必要だった」が後から出てきて、見積もりはさらに上がります。そうしてお金をかけて入れたツールのうち、現場が本当に欲しかったのは、ほんの一部です。残りの機能は使われないまま、入力する項目だけが多い。結果として、ツール全体が敬遠されます。
本音が一つ入ると、この流れが止まります。要件は会社の本質に戻り、払うお金も、入れたあとの負担も、必要な分だけになります。そして、新しく入った人や、普段はあまり意見を言わない人まで声を出せていると、いろいろな角度から先に確かめられているので、「これも必要だった」という取りこぼしも減ります。
セキュリティの議論ばかりが膨らんだときも同じです。「それは本質ではない」「正直、面倒くさい」という声が出れば、そこは情報システム部門に任せる、という整理ができます。
線が引ける
安全、セキュリティ、コンプライアンス。「何かあったらどうするんですか」という声は正しく、反対しにくい。だからルールと確認は増える一方になります。正論だけでは、どこにも線が引けないからです。
線が引けるのは、「そうは言っても、これでは仕事が進まない」という本音が出たときです。安全を言う側の正しさと、仕事を進める側の正しさ。その二つがぶつかって初めて、「ここまではルール、ここからは現場の判断」という会社の落としどころが見えます。線を引くのは会社の仕事ですが、線を引くための材料は、本音からしか出てきません。
持ち出し禁止のはずのPCが、外に出ている会社がありました。違反として片づければそこで終わりです。でも「持ち出せないと営業ができない」という本音として受け取れば、話が始まります。どこまでなら持ち出せるか、何があれば持ち出していいか。そこを一緒に決めた人が、その線を破るところを、私はまず見たことがありません。話し合ったから守るのか、もともと守る人だったのか、それは外からは分かりません。ただ、自分が関わって決めたルールを守らない人は、実際にはまずいないのです。
正解のない問題に、答えが出る
「上に逆らわない」「場を乱さない」。この空気には、整っているという良さがあります。細やかな気遣いや、人を慮る気持ちは、私たちの強みです。それを否定するつもりはありません。
ただ、我慢したまま出したアイデアには、その人の本領が出ていません。一生懸命考えてはいる。でも、思い切ったものは出にくい。出たように見えても、目立つための、奇をてらったものになりがちです。人生経験も、生まれ持ったものも、全部持ち寄って出す、ということが起きにくい土壌です。
我慢は、正解があった時代には合理的でした。「これさえやれば」「足で稼げば」で儲かった時代なら、場を乱さず従うほうが速い。
いまは、正解がない中をみんなで乗り切る時代です。工夫に工夫を重ねて、世の中にまだない答えを探さないといけない。持ち寄らないと、答えが出ません。
ツール選定は、その典型です。どのCRMにも正解はありません。期限があり、RFP(提案依頼書)という成果物があり、全員の日常業務に触れる。全員の本音が要る、珍しい案件なのです。
続く
あの営業の方が率先して入力している、と書きました。これは、営業成績がいい人の動きが、CRMに入っているということでもあります。一人の力が、組織の財産になっていく。
自分の本音から決めた仕組みは、使うのが苦になりません。だから続く。入力が続けば、データに関心が向きます。
RFPを作る、というのは、この流れを一枚の文書にする作業です。集めた本音を、決められる形に組み、何で成否を測るかを決める。私はこれを、声・組・数と呼んでいます。
次も、自分たちで選べる
あの営業の方が毎回の会議で「面倒くさい」と言えている、ということは、選定が一回で終わっていない、ということです。決めたことが、使いながら見直されている。
一度、自分事で選び切った会社は、コンサルタントが抜けても、自分たちで選び直せます。「その後もうまくいく」の根拠は、私が居続けることではなく、自分たちで選べる会社になったことです。
風土が変わる、という言い方をすることがあります。でもそれは目的ではなく、副産物です。ツール選定は、会社が自分の輪郭にぶつかる、稀な機会だと思っています。
個性は、最初からある。ただしその輪郭は、ぶつかるまで自分にも分からない
会社も、同じです。
なぜ、外の人が要るのか
社内で本音が出ないのには、いつも理由があります。立場、評価、利害。言わないことには、必ず理由がある。
だから私は、支援の真ん中に「若い方も含めて、みんなが本音で話せる場を用意する」ことを置いています。言っても大丈夫だ、とチームが信じられている状態を、経営学では「心理的安全性」と呼びます(Edmondson、1999)。私がやっているのは、その状態を、外の人間として一時的に持ち込むことです。
私は、難しいことを言う人ではありません。難しいことを言うのは、お客さまと、数字です。私の仕事は、それが届く回路を作ることです。
本音は、一回では出ません。回数と場が要ります。お客さまが営業担当に簡単に心を開かないのと同じことが、社内でも起きます。だから支援は、一回の会議では終わりません。
本音を出したら、仕事は楽しくなる
あの営業の方の「生き生きと堂々と」という様子が、私の言う「楽しい」の具体です。
楽しい、というのは薄い言葉ではありません。数字が上がるのが楽しい、で最初はいいと思っています。その奥に、お客さまに喜ばれる楽しさがあり、さらに奥に、責任とセットになった楽しさがある。責任感とは我慢のことではなく、楽しさを格別にする側のものです。
本音を出したら、仕事は楽しくなる。私が支援の真ん中に本音を置いているのは、そのためです。
このページを書いているのは、中山幸子(スマートプラス株式会社)です。具体的な支援の中身は支援内容に、場面ごとの話はこんなときにに書いています。
まずは一度、話してみませんか
「何から手をつければいいか分からない」の段階でかまいません。現状をうかがって、優先順位を整理するところからご一緒します。初回のご相談に費用はいただいていません。