「やらなきゃいけないのは、わかってるんです」——SEOやアクセス解析に手がつかない心理の話
「やらなきゃいけないのは、わかってるんです」
先日お会いした、サロンを経営されている方の言葉です。
商品にはっきりした思いのある方でした。お客さまへのまなざしも深くて、お話ししながら、聡明な方だなと何度も思いました。やるべきことも、ご自分でちゃんと計画されています。
それなのに、SEO対策やアクセス解析、サイトの動線といった「数字まわり」の話になると、手が止まってしまう。やらなきゃいけないのは、わかっている。でも、どうしても。
この「わかっているのに、できない」を、今日は書いてみたいと思います。これは怠けでも、能力の問題でもなく、心理学ではけっこう説明のつく現象だからです。
それから、他人事として書ける話でもないからです。私は自分の会社のホームページを、5年間放置していました。
先延ばしは、時間の問題ではなく感情の問題
先延ばしの研究には、よく知られた考え方があります。先延ばしは時間管理の問題ではなく、感情の問題だ、というものです。
そのタスクを前にしたときに湧いてくる嫌な感情——不安、自信のなさ、退屈——から一時的に逃れるために、人は先延ばしをする。つまり先延ばしは怠けではなく、感情の応急処置なのだそうです。
こう考えると、「計画は立てられるのに、実行できない」という一見不思議なことにも説明がつきます。計画を立てている時点では、嫌な感情はまだ発生していないからです。手を付けようとした瞬間に、初めてそれはやってくる。
相手が数字だと、これがいっそう強く出ます。数字が苦手な人は、これから計算をすると思っただけで、脳の中の痛みに関わる領域が反応する——そんな研究まであります。「数字を見ると痛い」は、比喩ではないらしいのです。
数字が怖いのは、思いが強いから
ではなぜ、数字はそんなに嫌な感情を連れてくるのでしょうか。
数字は、白黒をはっきりさせてしまうからだと思います。

商品への思いや、接客の質は、数字を見ない限り「きっと届いているはず」でいられます。でもアクセス数や問い合わせの件数を見た瞬間、それが点数になって返ってくる。
思いが強い人ほど、これは怖いはずです。数字が、仕事のやり方への採点ではなく、思いそのものへの採点に見えてしまうからです。
数字に向き合えないのは、思い入れがないからではなく、むしろ思い入れの裏返しなのだと思います。
5年間、自分のホームページを放置していた私の話
ここまでは、一般論です。ここからは私の話をします。
私は、会社の仕組みづくりやウェブ活用のお手伝いを仕事にしています。その私が、自分の会社のホームページを5年間ほったらかしにしていました。作り直したのは、つい先週のことです。
お客さまには「発信しましょう」「数字を見ましょう」と言っている本人が、です。時間がなかったから、と言いたいところですが、正直に振り返ると、時間の問題ではありませんでした。
私の中には、こういう理屈がありました。
すごく頑張って、力を入れて更新して、それでも数字が上がらなかったり、問い合わせが1件も来なかったりしたら。それは、何もしないで問い合わせが来ないよりも、もっと格好悪い。
何もしなければ、「やってないんだから、できてなくて当然」という言い訳が残ります。全力を出してしまったら、その言い訳がなくなる。
だから、やらない。
心理学では、これに「セルフ・ハンディキャッピング」という名前がついています。試験の前の夜に限って、部屋の掃除を始めてしまうあれです。先に自分でハンディを作っておけば、結果が悪くても自尊心が守られる。
名前がついている、ということが大事だと私は思っています。名前がついているのは、それだけ大勢の人が同じことをしてきたからです。自分だけがダメな人間だから、ではないのです。
数字は採点表ではなく、足あと
もうひとつ、私を動けなくしていたものについて書きます。数字の見方そのものです。
私は数字を、採点表だと思っていました。何点だったか。合格か、不合格か。
でも、作り直したサイトの数字を毎週見るようになって、見方が変わりました。アクセス解析に並んでいるのは、点数ではありませんでした。どこかの誰かが、何かを探してここへ来て、どのページを読んで、どこで帰っていったか。お客さまが通った、足あとです。
先日、ハンコ屋さんの記事で、お客さまの声を溜めていくと自分たちの本当の価値の輪郭が見えてくる、と書きました。アクセス解析も同じだと、今は思っています。あれは声にならない声です。まだお客さまになっていない誰かの、「探しに来たけれど、見つからなかった」という声。
採点表として見ると、怖い。足あととして見ると、たどりたくなる。数字そのものは、何ひとつ変わらないのに。
それでも、一人だと採点表に見える
と、ここまで書いておいて正直に付け加えると、「見方を変えれば怖くなくなる」という簡単な話でもありません。根本のところでつまずいているとき、人は理屈をいくら理解しても、実際に動けるかどうかは別の話だからです。頭でわかっていても、一人で数字を開く夜は、やっぱり採点表に見えます。
だから私は、コンサルティングの場で、やり方の話にすぐ入らないようにしています。手が止まっている方とお会いしたら、その手を止めているものが何なのかを、会話の中で見に行く。つまずきの正体が知識の側ではなく気持ちの側にあるなら、そちらから先に解いていく。心理学的なアプローチというと大げさですが、要は、怖さの正体を一緒に確かめる作業です。正体のわかった怖さは、少し小さくなります。
それから、一緒に見てくれる相手がいることも大きいと思います。私が5年間動けなかったのは、一人で向き合おうとしていたからでした。誰かと一緒に見ると、数字は「事実」に戻ります。良いも悪いもなく、次に何をするかを決めるための、ただの材料に。相手は誰でもいいと思います。家族でも、同業の友人でも、AIでも。
冒頭のサロンの方の話に戻ります。
もちろん、ご本人の本当のところは分かりません。でも、あの方がSEOや動線の話になると手が止まるのは、能力の問題ではないと私は思っています。商品への思いが強いから、数字が思いへの採点に見えて、怖い。それだけのことだと思うのです。
だからもし、同じように「わかっているのに、できない」を抱えている方がいたら、まず、ご自分を責めるのをやめるところからでいいと思います。それは怠けではなく、名前のついた、誰にでも起きることです。
そして数字は、あなたを採点しに来ているのではありません。お客さまの足あとが、そこに残っているだけです。読めるようになると、これがけっこう、面白いんです。
事例は、事業者さんが特定されないよう一部の情報をぼかしています。
ほかの記事
- 「マーク」が「文字」になる瞬間——ハンコ屋さんと地図を作った話
顧客管理というと、売るための道具だと思われがちです。でも、お客さまの声を溜めていくことには、もうひとつの働きがあります。自分たちの本当の価値を教えてくれる、鏡になること。手彫りのハンコ屋さんとカスタマージャーニーマップを作った実例から書きました。
- 「うちはただの紙袋屋です」と言っていた社長さんの話
仕事は本来、とても楽しいものだと思っています。ただしそれは気の持ちようの話ではありません。自分たちが本当は何をしている会社なのかが分かったとき、人は勝手に面白くなる。紙袋を作っている会社での実例から書きました。
まずは一度、話してみませんか
「何から手をつければいいか分からない」の段階でかまいません。現状をうかがって、優先順位を整理するところからご一緒します。初回のご相談に費用はいただいていません。