エクセルで名寄せをする前に、知っておいてほしい2つのこと
顧客のリストに同じ会社が何件も入っている。まずは手元のエクセルで片づけよう。
そう考えて検索された方に向けて書いています。専用のツールを買うほどの規模ではない、まずは自分でやってみる。その判断は、たいていの場合、正しいと思います。
ただ、始める前に知っておいていただきたいことが2つあります。ひとつは、エクセルには「戻せない操作」があること。もうひとつは、エクセルでの名寄せは一度きりの掃除であって、仕組みにはならないことです。
手順を先に書いて、そのあとでこの2つの話をします。
なお、同じ社名の行を寄せて売上を合計したいだけであれば、SUMIF関数かピボットテーブルで済みます。この記事は、そちらではなく、同じ相手が2件以上に分かれて登録されている状態を片づける話です。
手順は5つです
エクセルで名寄せをするときの流れを、先に表にしておきます。
| 段階 | やること | エクセルでは |
|---|---|---|
| 1. 整える | 表記のゆれをなくす | 全角と半角を揃える(ASC・JIS)。余分な空白を消す(TRIM)。「株式会社」「(株)」「㈱」を一つに揃える(置換) |
| 2. キーを作る | 「同じ相手」を1列で表せる形にする | 整えた社名と電話番号をつなげた列を作る、など |
| 3. 見つける | 重複している行を洗い出す | COUNTIFでキーの出現回数を数える。2以上が候補 |
| 4. 決める | どちらを残すか、人が判断する | エクセルの機能ではありません |
| 5. まとめる | 残す行に情報を寄せて、消す行を消す | 「重複の削除」は使いません |
1の「整える」は、以前の記事で書いたクレンジングにあたります。一件ずつのデータを整える作業が先で、整えたものを突き合わせるのが名寄せです。
2の「キー」について、ひとつだけ補足します。社名だけをキーにすると、同じ名前の別会社がまとまってしまいます。電話番号だけをキーにすると、代表番号を共有している部署どうしがまとまってしまいます。何をもって「同じ相手」とするのかを、キーを作る時点で一度決めることになります。ここは関数の話ではなく、その会社が誰を顧客と呼ぶかの話です。
関数の細かい書き方は、ここでは省きます。検索すればいくらでも出てきますし、この記事で書きたいのはそこではありません。
表の4と5に、エクセルの機能名が入っていない。 ここからが本題です。
「重複の削除」を押してはいけない理由
エクセルには「重複の削除」というボタンがあります。データタブにあって、範囲を選んで押すだけで、重複した行を消してくれます。
名寄せをしようとして、これを押した方を何人も見てきました。
このボタンが何をしているかというと、同じ値の行のうち、上にあるほうを残して、下を消しています。 どちらを残すかは、並び順で決まります。中身は見ていません。
同じ会社が2件あって、片方には10回分の訪問履歴が紐づいていて、もう片方には2回分しかない。このとき残るのは、履歴の多いほうではなく、たまたま上にあったほうです。
そして、ここがいちばん大事なところです。
分かれているものを一つにするのは、簡単です。誤って一つにしたものを元に戻すのは、ほぼ不可能です。
消えた行がどれだったのか、その行に何が紐づいていたのか、押した瞬間に分からなくなります。バックアップを取っていても、どの行をどう戻すのかを判断する材料が、もうありません。
もうひとつ、よくあるのが同じ名前の別会社です。社名が同じで、所在地も業種も違う会社は、思っているよりたくさんあります。ルールを決めずに機械的にまとめると、別の会社が一社になります。
まだ接触していない見込み客のリストなら、失うものは多くありません。けれども、過去のお客さまや、何年分もの接触履歴が入っているデータが誤ってまとまってしまうと、本当にもったいない。 そういうご相談を、実際に何件もいただいています。
だから、手順の4は人が決めます。5は「重複の削除」ではなく、残す行を決めてから、手で消します。
そして、判断がつかないものは、分けたまま残しておきます。 重複が残っているのは気持ちが悪いと思います。けれども、分かれているものは後からいつでも一つにできます。逆はできません。迷ったときは、戻せるほうを選んでおく。エクセルで名寄せをするときの、いちばん大事な原則だと思っています。
止まるのは、関数ではなく判断のところです
手順の4で、実際にどういう場面が出てくるか。
住所が違う2件が見つかった。どちらが今の住所か。「店舗」と「会社」の両方が登録されている。どちらを親にするか。同じ人が別の部署で2件登録されている。1件にするのか、2件のままにするのか。
これは、以前の記事「名寄せとは何か、そしてなぜ終わらないのか」で書いた話とまったく同じです。正解は一つに決まらなくて、その会社がどう営業しているかで答えが変わります。
エクセルで名寄せをする場合、この判断を一人で、目で見て、候補の数だけやることになります。関数が候補を出してくれるのはここまでで、その先はずっと人の仕事です。
判断の基準を先に決めておく、という話はその記事に書いたので、ここでは繰り返しません。ただ、エクセルでやる場合こそ、この基準がないと途中で止まります。
5,000件を超えると、エクセルそのものが相手になります
もう少し規模の大きな話をします。
5,000件や1万件の顧客データを、エクセルで名寄せしている会社は珍しくありません。私が見てきた範囲でも、かなりあります。
この規模になると、名寄せの前に、エクセルを開くこと自体が一苦労になります。 メモリが足りなくて開かない、開いても落ちる、保存したらファイルが壊れていた。ソートをかけただけで固まる、ということも起きます。
こういうとき、多くの解説記事は「エクセルには限界があるので、専用ツールの導入を検討しましょう」と書いています。
けれども、私が見てきた現場は、そうはなりませんでした。落ちながらも、結局、無理やりやり切っていました。 開かなければ待ち、固まったら開き直し、できるところまでやる。それが実態です。
問題は、そのあとです。
やり切ったはずのデータが、本当に正しく名寄せできたのか、誰にも分からないのです。表記のゆれ、空白の有無、法人格の書き方。整えきれなかったところが残っていて、どこまでが済んでいて、どこからが済んでいないのか、見分けがつかない。
実際にあった話を、少しぼかして書きます。
できるところまで名寄せをしたリストを、電話営業の会社に渡した会社がありました。中途半端なまま、できるだけのことはやった、という状態です。結果として、同じ相手に何度も電話がかかってしまい、お叱りを受けました。
名寄せが中途半端だと、その中途半端さは、社内で止まりません。お客さまのところまで届きます。
エクセルは「一度やる道具」で、「仕組み」ではありません
ここまでが、知っておいていただきたいことの1つめでした。ここからが2つめです。
エクセルで、時間をかけて、きれいに名寄せができたとします。それでも、翌日からまた汚れ始めます。 営業の方が新しいお客さまを登録するとき、既にあるかどうかを検索せずに入れれば、そこから重複が増えていきます。
これは名寄せそのものの性質で、以前の記事で「きれいにしても、また汚れます」と書いたとおりです。
エクセルでの名寄せは、汚れたものを一度きれいにする作業です。汚れないようにする仕組みは、エクセルの中には作れません。
では、名寄せの大切さが分かっている会社は、何をしているか。私が見てきたなかで多いのは、次の2つです。
ひとつは、顧客管理ツールを乗り換えるときに、あわせて名寄せをするという形です。乗り換えにはどのみちデータの移行がありますから、そのときに一度、全部を整える。「せっかくだから」の名寄せです。
もうひとつは、もう少し大掛かりで、顧客のデータベースを別に一つ作って、新しいお客さまの登録は必ずそこから行うという形です。顧客管理ツールの画面からは直接登録させない。入り口を一つにして、そこで重複を止める。
しっかりした担当の方がいる会社や、情報システムの部門がある会社では、最近この形が増えました。少し大げさに聞こえるかもしれませんが、名寄せの重要性が分かっている会社は、だいたいこういう「装置」を持っています。
エクセルでの名寄せは、この装置を作る前の、一度だけの掃除だと位置づけると、ちょうどいいと思います。掃除をしないと、装置に入れられない。掃除だけでは、装置にならない。どちらも本当です。

ポイント
- エクセルで名寄せをする手順は5つです。 整える、キーを作る、見つける、決める、まとめる。4と5にはエクセルの機能名がありません
- 「重複の削除」は使いません。 上の行を残して下を消すだけで、中身は見ていません
- 分けるのは簡単で、戻すのはほぼ不可能です。 迷ったら、分けたまま残しておきます
- 同じ名前の別会社は、思っているよりたくさんあります。 ルールなしにまとめると、別の会社が一社になります
- 止まるのは関数ではなく、判断のところです。 どちらを残すかは、その会社の営業のしかたで変わります
- 5,000件を超えると、エクセルを開くこと自体が仕事になります。 それでも現場はやり切りますが、正しかったかどうかが分からなくなります
- 中途半端な名寄せは、お客さまのところまで届きます。 同じ相手に何度も電話がかかる、という形で
- エクセルの名寄せは、一度だけの掃除です。 汚れないようにする装置は、別に要ります
顧客データが分散していて全体像が見えない、というご相談はこちらのページにも書いています。ツールの選び方についてはCRM・顧客管理ツールを選びたいをご覧ください。
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