ツールに業務を合わせる、に私は賛成です——ただし選ぶ前に見ておきたい3つの領域
前の記事で、Fit to Standard について「通らない場面があります」と書きました。
読み返して、少し気になりました。あの書き方だと、私がこの考え方に慎重な立場に見えます。
そうではありません。私は、賛成です。 どちらかというと、強く。
今日はそこをちゃんと書き直したうえで、それでも「ここだけは軽く決めないでください」と思っていることについてお話しします。
先に、3つの領域の違いを
Fit to Standard というのは、業務のやり方をツールの標準機能に合わせる、という考え方です。カスタマイズをせず、ツールが用意している形に自分たちが寄っていく。
賛成の理由はあとで書きます。先に、いちばんお伝えしたいことから。
「合わせればいい」の通りやすさは、領域によってまったく違います。 私が見てきた範囲では、大きく3つに分かれます。
| 領域 | 業務を変える負担を引き受けるのは | 外からの決まり | ツールに合わせることは |
|---|---|---|---|
| 会計・税務・法令対応 | 社内 | 法律で決まっている | 合わせやすい |
| 会員管理など、お客さまが触るもの | お客さま | お客さまの数と手間 | 軽く決めると危ない |
| 商談管理(SFA) | 社内だけで完結 | 法律の縛りがない | いちばん効く。ただし設計は要る |
同じ「ツールに合わせます」という言葉でも、1行目と2行目では、まったく別のことを言っています。
順番に書いていきます。
私が賛成する理由
自社のやり方に合わせたい、というこだわりを社内でずっと固定してしまうと、組織も業務も硬直していきます。
昔からこうやっている。うちはこれでないと困る。そう言い続けているうちに、外の世界で当たり前になった考え方が、社内に入ってこなくなる。
いまは特に、AIがあります。外にある優れたトレンドや考え方を取り込むうえでも、ツールの思想に乗っていくことを軸足にするほうがいい。そのうえで、どうしても譲れないオリジナルの部分だけを、自分たちでやる。
そのほうが、コストの面では間違いなく良い。そして、これは意外と言われないことですが、自社の業務の整理にもなります。 ツールに合わせようとすると、「なぜうちはこうしているのか」を一つずつ考えざるを得なくなるからです。
目的次第ではあります。けれども考え方として、私はこちら側にいます。
会計は、合わせやすい
会計、税務、給与、法令対応。このあたりは、やるべきことの大枠が会社の外側で決まっています。会社法があり、税法があり、電子帳簿保存法がある。
外に答えがあるので、ツールもそれに合わせて作られています。合わせたところで、競争力は落ちません。 ここで Fit to Standard が言われるのは、当然のことだと思います。
裏返すと、ここには「変えられないもの」もはっきりしています。法律で提出が決まっている書類のフォーマットと、そこに出力するためのデータの入れ方。ここは、こちらの都合では動かせません。けれども動かせないものが外で決まっているからこそ、ツールもそこに合わせて作られていて、迷う余地が少ないのです。
前の記事で「非競争領域」と書いたのは、この領域のことです。
お客さまが触るものは、変える負担を払うのがお客さまです
会員管理や顧客管理のツールを乗り換えるとき、検討の最初の段階で、こうおっしゃる方が結構いらっしゃいます。
「コストを下げたいので、ツールに合わせて業務のほうを変えます」
考え方は正しい。私も賛成です。ただ、実際にやってみると、変えられない業務が出てきます。
よくあるのは、外向けの手順がガラリと変わってしまうケースです。受発注の手続きや、何かの申し込みの手順。相手のITリテラシーが高くない場合、特にお客さまにご年配の方が多い場合、手順を変えるとお互いにものすごくストレスになります。だから、変えられないことが多い。今までLINEでやっていたものを急にWebにする。紙だったものを急にWebにする。そこには、ひとつ覚悟が要ります(紙のものはWebにしたほうがいい、とは思っていますが)。
いちばん大きいのは、会員管理システムを変えたときです。アカウントを作り直していただかないといけない場面が出ると、大混乱が起きがちです。最低限、数か月単位で事前に案内すること。周知したうえで、移行期間をしっかり設けること。問い合わせ窓口を置くこと。この3つは要ります。それでも「パスワードが分からない」「設定したとおりに入力してもログインできない」は、必ず起きます。想定問答をQ&Aやチャットボットで先に出しておく、電話で受けられる体制にしておく、という備えが要ります。
社内の人が10人なら、10人に説明すれば済みます。お客さまが数千人、数万人だと、そうはいきません。対象の数が多くなるほど、対応が難しくなる。 今までとやり方が変わって使いづらくなれば、会費をいただいている仕組みなら、それがそのまま解約の理由になります。
それで結局、カスタマイズせざるを得なくなる。
「合わせればいい」と決めていた前提が、要件定義の途中で崩れます。そのとき、すでに引き返せない地点にいることが多いのです。
業務を変える負担を払うのが、社内の人とは限らない。 この領域では、そこを先に見ておく必要があります。

商談管理(SFA)は、いちばん「合わせてみよう」が効きます
一方で、同じ顧客管理の中でも、商談管理の部分はずっと柔軟です。
SFA(営業支援システム)は、基本的に社内だけで完結します。お客さまが操作する画面はありません。そして、会計や税務のように、法律で決まったアウトプットに縛られることもありません。
だから、方針を決めやすい。ツールに合わせるにせよ、独自のやり方を残すにせよ、決めれば決められる領域です。
私の経験では、ここで「どうせならツールに合わせてみよう」と決めた会社は、うまくいくことが多い。外の思想を取り込む場所として、いちばん向いていると思っています。
営業のやり方そのものを揃える話ではありません。揃えるのは「どこへ向かうか」と「やったかどうかの確認」で、「どう売るか」は本人に任せる。そのあたりは営業の行動管理の記事に書きました。ツールの標準に乗るというのは、その「揃える側」の器を、ツールから借りてくるということです。
ただし、外からの縛りがないというのは、縛りがないという意味ではありません。社内には、あります。
いちばん典型的なのが、社長が経営判断に長年使っているKPIです。変えられなくはないのですが、すごく変えにくい。そして、その数字はたいてい営業の記録から出ています。ツールの標準のままではその数字が取れない、ということが起きると、そこにこだわる会社さんは結構多いという印象です。
だから、合わせると決めても、設計はいります。KPIにしやすい数字をどれにするか。いま社長が見ている数字を、新しいツールでどう出すか。見たいデータが見られるように、データをどう持つか。 たとえば、商談の単位をどう組むか。
いちばん多いのは、商品ごとに組むかどうかです。1つの商品で1つの商談なのか。セット商品になったとき、クロスセルになったときは、どうするのか。私のおすすめは、受注単位——受注が決まりそうな単位——で組むことです。ただ、これも実務ではずれることが多いので、会社ごと、商品ごとに組み方を調整していくことになります。継続の商談やサブスクリプションの扱いも同じです。
逆に、組まなくていい場合もあります。製造業に多いルート型の営業なら、新規開拓のような前工程から商談を組む必要はありません。「今回はいくつにしますか」という数量の交渉が、そのまま商談です。簡易的なパイプラインで足りることも多い。
こういう業務の特性が、なんとなくしか認識されていないことがあります。だから、まず現状を整理する。そのうえで、ツールの設定と運用をどうするかを考える。順番は、こちらが先です。
失敗するのは、いま使っているツールだけを見て合わせるとき
ここからが、いちばん強くお伝えしたいところです。
Fit to Standard がうまくいかないケースには、共通点があります。ほとんどの事業者さんが、自社の業務がどういう手順で行われているのかを、きちんと把握できていない状態から始めているのです。
これは、その会社が特別だという話ではありません。日々の仕事は、それぞれの部署の中で、それぞれの人の手の中で回っています。全体を一枚の絵として見たことのある人は、ほとんどいません。社長も含めて、です。
その状態で、いま使っているツールの画面だけを見て「これをあのツールに置き換えれば」と考える。表面だけを合わせにいく。これは、だいたい失敗します。
ツールを選ぶ前に、全部ひっくり返して、棚卸しをする。 これをやらないとだめです。
棚卸しというのは、そのツールに関わりそうな全部門の業務を、末端で手を動かしている人のところまで、全部洗い直すことです。誰が、何を受け取って、何をして、誰に渡しているのか。社長が見ているレポートも同じで、あの数字は誰がどこから拾ってきて、どう加工しているのか。
ここまでやると、見えてきます。そして、ほぼ必ず出てくるものがあります。
「この部署と、この部署で、まったく同じことを、違う手順でやっている。」
こういう無駄が、棚卸しをすると2つか3つは出てきます。
面白いのはここからで、ツールはまだ何も入れていません。業務を洗い出しただけです。それなのに、この時点でもう仕事が減り始める。DXと呼ばれるものが、ツールを入れる前に始まってしまう。 これは特別な会社の話ではなく、ほとんどの会社で起きます。
DXは、ツールを変えることがきっかけになる場合もあります。けれども、その種はもっと些細なところに、いくらでも転がっています。自分たちの業務にちゃんと意識を向けさえすれば、何でも出てくる。棚卸しは、そのための時間でもあります。
ベンダーさんにも、同じだけ理解してもらう必要があります
もうひとつ、あまり言われないことを書きます。
ツールの標準に合わせるなら、ベンダーさんには軽い説明で済む。そう思われがちですが、逆です。カスタマイズが少しでも発生するなら、ベンダーさんにも、こちらの業務をきちんと理解してもらわないといけません。
ゼロから作るスクラッチ開発のほうが、もっと深く理解してもらう必要があるのは確かです。けれども、結局、同じくらい理解してもらうことになります。
理由は単純で、こちらは、そのツールが持っている機能のポテンシャルが分からない。ベンダーさんは、こちらの事業の細かいところが分からない。 お互いに、相手の側にある情報が見えていない。だから、業務を見せないと、ツールのどの機能をどう当てればいいかを、ベンダーさんも判断できないのです。
棚卸しは、自社のためだけでなく、ベンダーさんに渡すためのものでもあります。
選ぶ前にやることの順番
まとめると、ツールを選ぶ前にやることは、こういう順番になります。
まず、棚卸し。 そのツールに関わりそうな全部門の業務フローを、完全に明らかにする。社長が見るレポートも含めて。
次に、現状分析。 洗い出したものを、3つに仕分けます。
- 変えられるところ。 ここは、ツールに合わせます
- 絶対に変えたいところ。 今のやり方に不満があって、乗り換えを機に直したいところ
- 今回ツールを変える、そもそもの目的。 なぜ乗り換えるのか。コストなのか、見えていないものを見たいのか、お客さまへの対応を変えたいのか
そして、これらを含めた形でRFP(提案依頼書)を作って、ベンダーさんに当てる。 RFPの考え方はこちらのページに書いています。
ここまでやって初めて、「合わせられるところは合わせる」という Fit to Standard が、言葉ではなく実際に動き始めます。
棚卸しは、外部の専門家と一緒にやるのが、いちばん本質をとらえやすいと私は思っています。私でなくても構いません。中にいると当たり前になっていることは、外から見た人のほうが「それ、なぜですか」と聞けるからです。もちろん、事業者さんそれぞれの事情に合わせて決めていただければいいことです。自社でやるなら、範囲を狭めないことだけは守ってください。ツールに関わりそうな部門を、全部。そこを狭めた分だけ、あとで「聞いていない」が出てきます。
ポイント
- Fit to Standard に、私は賛成です。 自社に合わせるこだわりを固定すると、組織も業務も硬直します
- 軸足はツールの思想に。譲れないオリジナルの部分だけを自社でやる。 コストの面でも、業務の整理の面でも、そのほうがいい
- ただし「合わせればいい」の通りやすさは、領域で違います。 会計は合わせやすく、お客さまが触るものは軽く決めると危なく、商談管理(SFA)はいちばん効く
- お客さまが触るもので変えにくいのは、外向けの手順。 会員のアカウント作り直しは、数か月前の案内・移行期間・問い合わせ窓口が最低限です
- SFAに外からの縛りはありませんが、社内の縛りはあります。 社長が長年見ているKPIがその典型で、だから設計が要ります。商談の単位は、商品ごとか受注単位か。ルート型の営業なら簡易的なパイプラインで足りることもあります
- 失敗する共通点は、自社の業務の手順を把握しないまま、いま使っているツールだけを見て合わせにいくこと。 これは、だいたい失敗します
- 選ぶ前に、全部ひっくり返して棚卸しをする。 関わりそうな全部門、末端の人まで、社長が見るレポートまで。同じことを違う手順でやっている無駄が、2つか3つは出てきます
- DXの種は、些細なところにいくらでも転がっています。 ツールを入れる前、棚卸しの時点でもう始まります
- ベンダーさんにも、スクラッチと同じくらい理解してもらう必要があります。 こちらはツールのポテンシャルが分からず、ベンダーさんはこちらの事業の細かいところが分かりません
- 順番は、棚卸し → 現状分析(変えられるところ/絶対に変えたいところ/そもそもの目的)→ RFP。 ここまでやって、Fit to Standard が言葉ではなく実際に動き始めます
- 棚卸しは外の視点があるとやりやすい。 誰と組むかは、それぞれの事情で
顧客管理ツールの選び方は顧客管理ツールを選びたいに、会員管理システムの入れ替えは会員管理システムを刷新することになったに、RFPの作り方はRFPを作りたいに、営業の状況が見えないという場面は営業が属人化していて見えないに、それぞれ書いています。
こんなお悩みに心当たりがあれば
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まずは一度、話してみませんか
「何から手をつければいいか分からない」の段階でかまいません。現状をうかがって、優先順位を整理するところからご一緒します。初回のご相談に費用はいただいていません。