本音が出ると、何が起きるか——自分事になる、要件が絞られる、続く
ある支援先の営業チームの話です。
ITは苦手だ、とご自身で言う方がいます。そして営業成績は、チームでも指折りです。CRMを選ぶ会議で、話が「あれもやりたい、これもできる」と広がっていたとき、その方が言いました。
「面倒くさいことはやりたくない。ITも苦手だし、自分たちにとって一番大事なのは営業活動そのものだ」
その方はいま、率先して入力しています。
なぜそうなったのか。本音が出ると何が起きるのかを、順に書きます。この方の話は、なぜ本音から始めると成功するかにも書きました。
本音が出ると、自分事になる
上に言われたことを、自分がどう思うかを咀嚼しないまま、従う。日本の会社では、それが当たり前の光景になりがちです。整っている、という良さはあります。ただ、その状態が続くと、組織は少しずつ形だけになり、現場と決めごとが離れていきます。
全員ではありません。でも、「納得いかないけれど、しょうがないからやる」と、心のどこかでくすぶっている人は、どの会社にもいます。その状態のまま入れたツールは、しぶしぶ使われます。定着せず、データに関心が向かない。「知らない間に誰かが決めた」と感じているからです。
逆に、選ぶプロセスの中で自分の意見が吸い上げられていると、関わり方が変わります。関心の向き方も、熱量も、確実に変わります。ナレッジツールのような、比較的軽いものでも同じです。
本音が出ると、そのツールは、自分事になる。
これは仮説ではありません。支援を続けてきた中で、ずっと実感してきたことです。同じ人の「本音を出さなかった未来」と「本音を出した未来」を並べて比べることはできません。でも、違う会社で、二つの型は何度も見てきました。知らない間に決まったツールがしぶしぶ使われる会社と、本音が出て、自分の仕事になった会社と。
情報システムの研究でも、選ぶ過程に利用者が関わると、その仕組みを「自分のもの」と感じるようになり、それが実際の利用につながる、という結果が1980年代から積み重なっています(Barki と Hartwick、1994 ほか)。
「みんなで決める会社」に変えようとはしません
顧客管理(CRM)のツール選定を長く手伝ってきましたが、その中でいちばん多く立ち会ってきたのは、実は「何を選ぶか」ではなく「どうやって決めるか」という場面でした。
そして、決め方は会社によって本当にさまざまです。社長が決めて、社員がそれに従う会社。会議の場で、いちばん立場が上の人が言ったことに決まる会社。役職に関係なく、みんなで意見を出し合って揉んでいく会社。
正直に言えば、私は三つめが理想だと思っています。いろいろな現場を見てきて、本音が言える会社はやっぱり強い、と実感しました。
ただ、だからといって「トップダウンをやめましょう」とは言いません。言ったところで簡単に変わるものではありませんし、その決め方自体が、その会社がここまで来られた理由——つまり文化そのものであることが多いからです。外から来た人間が、短い期間でひっくり返していいものではありません。
ゼロベースの理想はいつも持っています。でもそれ以上に、今ある文化をそのまま引き継いだ形で前に進めることのほうが、本当は大事だと考えています。
たとえばトップダウンの会社なら、決断の速さは大きな武器です。それを鈍らせずに、決めて出したあとの改善フェーズで社員の意見を戦わせる——そういう寄せ方があります。決め方そのものを変えるのではなく、本音が出る場所を一つ足す、というやり方です。
ガラッと変わることに夢を見て「変わりたい」と思うこともあります。ただ、会社が本当に大きく変わるときは、いつも内側から起こります。外から誰かがやって来て無理やり変えるのは、私が見てきた限りでは、とても難しいことです。
だから私は、変えることではなく、本音を出してもらうことを、支援のプロセスの真ん中に置いています。出てきた本音が、その会社の変わり方を決めます。
却下されても、いい
決め方は、その会社の文化です。トップダウンの会社はトップダウンのまま、会議で決める会社はそのままでいい。
変えるのは、「言えたかどうか」だけです。
自分の意見が最終的に却下されても、きちんとぶつけられたこと自体に意味があります。人は、そこから心を開いていきます。逆に、言う場がないまま決まったことには、正しくても心がついていきません。
これは私の実感ですが、心理学では古くから確かめられていることでもあります。自分の言い分を述べる機会があった人は、結果が自分の望みどおりでなくても、その決定を公正だと感じて受け入れやすい。1970年代に Thibaut と Walker が示して以来、「発言効果」と呼ばれて、組織の研究でも繰り返し確認されています。
先ほどの営業の方も、自分の意見を通しているわけではありません。効率的に使いたい人の意見は尊重する。そのうえで、自分はこう思う、と言う。本音というのは、好き勝手に言うことではなくて、責任とセットで出てくるものです。
要件が、本質に絞られる
営業成績がいい人の「面倒くさい」は、怠慢の声ではありません。お客さまに使う時間を守ろうとする声です。
あの一言で、会議の空気が変わりました。「記録や分析をすることが本題ではない」と、みんなが気づいたのです。議論を重ねて、入力する項目を絞ったシンプルなツールを一旦入れ、将来は拡張できるものを選ぼう、という形で合意しました。
もしあの一言がなかったら、どうなっていたか。綺麗事でまとまりかけた要件は、誰も反対しにくいので、そのまま通ります。「あれもやりたい」が全部入ったままベンダーに渡ると、要件の数だけ見積もりが膨らみます。しかも、要件を詰めていく途中で「これも必要だった」が後から出てきて、見積もりはさらに上がります。そうしてお金をかけて入れたツールのうち、現場が本当に欲しかったのは、ほんの一部です。残りの機能は使われないまま、入力する項目だけが多い。結果として、ツール全体が敬遠されます。
本音が一つ入ると、この流れが止まります。要件は会社の本質に戻り、払うお金も、入れたあとの負担も、必要な分だけになります。そして、新しく入った人や、普段はあまり意見を言わない人まで声を出せていると、いろいろな角度から先に確かめられているので、「これも必要だった」という取りこぼしも減ります。
セキュリティの議論ばかりが膨らんだときも同じです。「それは本質ではない」「正直、面倒くさい」という声が出れば、そこは情報システム部門に任せる、という整理ができます。
続く
あの営業の方が率先して入力している、と書きました。これは、営業成績がいい人の動きが、CRMに入っているということでもあります。一人の力が、組織の財産になっていく。
自分の本音から決めた仕組みは、使うのが苦になりません。だから続く。入力が続けば、データに関心が向きます。
RFPを作る、というのは、この流れを一枚の文書にする作業です。集めた本音を、決められる形に組み、何で成否を測るかを決める。私はこれを、声・組・数と呼んでいます。この3つについては、別のページにまとめて書きました。
次も、自分たちで選べる
あの営業の方が毎回の会議で「面倒くさい」と言えている、ということは、選定が一回で終わっていない、ということです。決めたことが、使いながら見直されている。
一度、自分事で選び切った会社は、コンサルタントが抜けても、自分たちで選び直せます。「その後もうまくいく」の根拠は、私が居続けることではなく、自分たちで選べる会社になったことです。
社内の空気が変わる、という言い方をすることがあります。でもそれは目的ではなく、副産物です。ツール選定は、会社が自分の輪郭にぶつかる、稀な機会だと思っています。
個性は、最初からある。ただしその輪郭は、ぶつかるまで自分にも分からない
会社も、同じです。
なぜ、外の人が要るのか
社内で本音が出ないのには、いつも理由があります。立場、評価、利害。言わないことには、必ず理由がある。
だから私は、支援の真ん中に「若い方も含めて、みんなが本音で話せる場を用意する」ことを置いています。言っても大丈夫だ、とチームが信じられている状態を、経営学では「心理的安全性」と呼びます(Edmondson、1999)。私がやっているのは、その状態を、外の人間として一時的に持ち込むことです。
私は、難しいことを言う人ではありません。難しいことを言うのは、お客さまと、数字です。私の仕事は、それが届く回路を作ることです。
本音は、一回では出ません。回数と場が要ります。お客さまが営業担当に簡単に心を開かないのと同じことが、社内でも起きます。だから支援は、一回の会議では終わりません。
なぜ本音から入るのか、という私自身の理由は、なぜ本音から始めると成功するかに書いています。
ツールの相談から始まって、気づけば「自分たちは何屋なのか」を言い直している。そういう仕事を、私はしています。
中山 幸子
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ツールの前に、話をしよう。
まずは一度、話してみませんか
「何から手をつければいいか分からない」の段階でかまいません。現状をうかがって、優先順位を整理するところからご一緒します。初回のご相談に費用はいただいていません。