業務フローの作り方——記号を覚える前に、話して、表にする
業務フローの作り方を調べると、たいてい記号の説明から始まります。四角は処理、ひし形は判断、矢印はこう引く。そこで手が止まる方が、とても多い。
業務マニュアルを作り直そう、というときも同じです。マニュアルがあっても表面的だったり、5年前・10年前に作ったきりだったり。書き直す前に、今の仕事が実際どう流れているかを押さえないと、また表面的なものができます。
私は、業務フロー図を最初には描きません。先に作るのは、表です。「誰が、何をきっかけに、何をして、誰に渡すか」を一行ずつ書いた、業務の棚卸表。これが全部そろってから、図にします。
業務フロー図は、いきなり描かない
図を最初に描くと、図の作り方に気を取られて、本来出すべき中身に集中できなくなるからです。使い慣れていない方はもちろん、慣れている方でも、四角を動かしたり矢印を引き直したりしているうちに、頭が別のところへ行ってしまう。経験上、そういうことが本当に多い。
一度テキストで書き出して、それをもとに図を描き、図を見てまた直す。この順番のほうが、ずっとスムーズに進みます。表なら、一行書けば一行ぶん進みます。
そして今は、その一行目を自分で書かなくてもよくなりました。話したことをAIが表にしてくれます。この記事では、その手順を書きます。記号やルールの話は、ほかの記事にたくさんあるので、ここでは扱いません。
仕事は、2つの入り口のどちらかから始まる
表を作る前に、ひとつだけ覚えておくと楽になる見方があります。仕事が動き出すきっかけは、だいたい2つしかありません。
- 何かが起きる。 問い合わせが来る、注文が入る、上司から「これ頼む」と言われる。
- 日付が来る。 月末になる、毎週月曜になる、締め日が来る。
このどちらかで、誰かがバトンを持ちます。バトンを持った人は、何かをして、どこかへ渡す。渡した先の人が、また何かをして、次へ渡す。業務フローとは、このバトンの受け渡しを順に並べたものです。
だから、一人ひとりについて聞くことも決まっています。
- 何がきっかけで、あなたの番になりますか
- あなたの番のあいだに、何をしますか。どこに対して、何をしますか
- 何かを作りますか。システムに入力する、メールを送る、業者に発注する、資料を出す
- 誰かに相談して、その結論を伝えますか
- どこまでやったら、あなたの番は終わりですか。誰に渡しますか
入り口と出口、そのあいだで出てくる成果物。この3つがそろえば、一行できあがりです。粒度を粗くしても、この枠組みは変わりません。「関係者に何を渡すか」だけは、なるべく落とさないでください。そこが、次の人の入り口になるからです。
まず1つの業務だけ、口で説明する
「表も書けない」と言われることがあります。そういうとき私は、一つの業務だけ聞いて、一行だけ書いて見せます。
たとえば、セミナーの申し込みが来たとき。私が聞くのは、こんなことです。
「申し込みがあったら、誰が受け取りますか。返事はしますか、しませんか」 「システムが自動で返信しますか。それとも、誰かが確認してから案内しますか」 「その人に営業担当がついているか、確認しますか。ついていたら、どうしますか」
ここまで聞くと、たいてい「あ、こうやって書けばいいのね」となります。一行目を一緒に書くと、二行目からはご自分で書ける方が多い。
書くのは、こんな一行です。
| きっかけ | 誰が | 何をする | 何が出る | 誰に渡す |
|---|---|---|---|---|
| セミナー申し込みのメールが届く | 事務の〇〇さん | 申込一覧に転記し、営業担当がついているか確認する | 申込一覧(更新) | 担当がいれば営業の△△さん、いなければ営業部長 |
きれいでなくていい。呼び名が揺れていてもいい。まず一行、口で説明できれば、それが表になります。
話したことを、AIに表にしてもらう
一行目が書けたら、あとは数です。ここで、AIが使えます。
やり方は単純です。打ち合わせの録音や文字起こしをAIに渡して、「この話を、業務の表にしてください」と頼む。列は、上の表と同じ5つ。きっかけ、誰が、何をする、何が出る、誰に渡す。
私がやっているのは、もう少し地味なことです。録音を渡したうえで、AIに「聞いて答えて」と頼み、ひとつずつ「どうしますか?」と聞いていく。申し込みが来たら、どうしますか。担当がいたら、どうしますか。人の話は、必ず「誰か」や「何か」がきっかけになって動きます。その「誰か」を、一つずつ確かめていきます。
返ってくるのは、行が増えた表です。自分で書いていたら半日かかるものが、話した時間ぶんで出てきます。
ただし、AIが出した表は、そのままでは使えません。必ず人が直すところがあります。次に書きます。
AIの表で、人が直すところ
「AIが必ず間違えるところ」は、実はそれほど決まっていません。ただ、ありがちなことが2つあります。どちらも、呼び名の問題です。
1つ目は、担当者。 同じ人を、ある場面では「田中さん」、別の場面では「経理の人」「課長」と呼ぶ。人の話では普通のことですが、AIはこれを別々の3人だと受け取ることがあります。表を見ると、いない人が増えている。
これは、先に体制図のようなものを読ませておくと、だいぶ減ります。誰が何の担当で、どう呼ばれているか。一枚あれば足ります。
2つ目は、仕事の名前。 同じ資料を「月次会議の資料」と呼んだり「営業進捗管理表」と呼んだりする。AIはこれを、別の2つの仕事として表に載せます。
こちらは、先に防ぐのが難しい。話している本人も、同じものだと気づいていないことが多いからです。だから私は、できた表を見ながら「これとこれ、同じことですか?」と聞いて直します。
白状すると、私も部外者として話を聞いているときは、AIと同じところで混乱します。「それって同じことですか?」は、私が現場でいちばんよく口にする質問かもしれません。AIが間違えるところは、人が間違えるところと同じです。
書類の名前が決まっていない会社では、この表を作りながら名前を決めていきます。用語集や書類の一覧を別に作って進める会社もあります。どちらでも構いません。
最初から細かくしない。できてから直す
もうひとつ、大事なことがあります。最初から、きれいに作ろうとしないことです。
情報システム部のような、細かい整理が得意な方が担当するなら、それでいい。でも、この作業を任されるのが、細かい作業が苦手な方であることも多い。そういうときに「用語を統一してから」「体制図を完成させてから」と始めると、始まりません。
大雑把でいいから、一度最後まで行く。できてから直す。表はあとから直せますが、ないものは直せません。
AIを使う意味も、ここにあります。きれいな一行を書く人を探すより、話せる人に話してもらって、表にしてから直すほうが早い。
表が全部できたら、図にする
表がそろったら、ようやく図です。といっても、表の「誰に渡す」の列をたどって矢印でつなげば、業務フロー図はできています。記号は、四角と矢印だけで足ります。
図にするいちばんの理由は、一目で分かることです。表は、一行ずつ読まないと流れが頭に入りません。図なら、誰から誰へ流れているかが、見た瞬間に分かる。社長にも、現場にも、システム会社にも、同じ絵を見せて同じ話ができます。ついでに、バトンが戻ってくる場所や、誰も受け取っていない場所も見えてきます。
図はエクセルの図形でも、パワーポイントでも、AIに描かせても構いません。表があれば、どれでも同じ図になります。
どこまで描けばいいか、範囲をどこで切るかは、別の記事に書きました。顧客管理ツールを決めるのが目的なら、「きっかけ・加工と受け渡し・ゴール・受け取った人がどうするか」の4つが見えれば足ります。
→ 現状の業務フロー図は、どこまで描けばいいか——顧客管理ツールを決める前に必要な4つ
よくある質問
業務フローは、エクセルで作れますか
作れます。表はエクセルそのものですし、図もエクセルの図形で描けます。5列の表(きっかけ・誰が・何をする・何が出る・誰に渡す)があれば、ほかに何も要りません。棚卸表そのものの書き方は業務棚卸のやり方とフォーマットに書いています。
業務棚卸しにAIを使うと、どうなりますか
表を作る時間が、桁で減ります。話した内容がそのまま行になるので、「書くのが面倒」で止まっていた会社でも進みます。その代わり、担当者の呼び名や仕事の名前の揺れを、人が見て直す必要があります。AIは候補を出すところまで。同じかどうかを決めるのは、人です。
業務フローのテンプレートはありますか
上の5列の表が、テンプレートです。記号付きの図のテンプレートを探す前に、この5列を埋めてみてください。図は、そのあとで描けます。
業務フロー図の記号やルールは、覚えなくていいのですか
社内で見るだけなら、四角と矢印で足ります。システム会社に渡す、監査に出すなど、相手が決まっている場合は、相手の書き方に合わせます。そのときも、表ができていれば描き直すだけです。
誰が作るのがいいですか
その仕事をしている本人が話し、別の人が聞いて表にするのが一番です。本人が自分で書くと、当たり前すぎることが抜けます。聞き役は、社内の別部署の人でも、外の人でも、AIでも構いません。
ツールを決める前に、今の仕事が見えていること
私がこの表を作るのは、顧客管理ツールを選ぶ前です。ツール選びは、そのあとに続く全部の土台になります。土台が見えていないまま選ぶと、あとから取り返しがつきません。
だから私は、「作り方」を難しくしたくない。記号を覚えてからではなく、話すことから始めてほしい。一行目を一緒に書けば、二行目からはご自分で進める会社が、本当に多いのです。
「うちでもできるだろうか」と思われたら、一つの業務だけで構いません。話してみてください。表になります。
ポイント
- 業務フロー図は、いきなり描かない。 図の作り方に気を取られて、中身に集中できなくなる
- 先に表。 きっかけ・誰が・何をする・何が出る・誰に渡す、の5列
- 仕事の入り口は2つ。 何かが起きるか、日付が来るか
- まず1業務だけ口で説明する。 一行目を一緒に書けば、二行目からは自分で書ける
- AIに表にしてもらい、人が直す。 直すのは、担当者の呼び名と、仕事の名前の揺れ
- 最初から細かくしない。 大雑把に最後まで行って、できてから直す
- 表がそろったら、矢印でつなぐ。 それが業務フロー図
表と図は架空の例です。本文の場面は、事業者さんが特定されないよう一部の情報をぼかしています。
ツールの相談から始まって、気づけば「自分たちは何屋なのか」を言い直している。そういう仕事を、私はしています。
中山 幸子
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ツールの前に、話をしよう。
まずは一度、話してみませんか
「何から手をつければいいか分からない」の段階でかまいません。現状をうかがって、優先順位を整理するところからご一緒します。初回のご相談に費用はいただいていません。