顧客管理ツール(CRM)の選び方——製品を比べる前に決めておく5つのこと

顧客管理ツール(CRM)は、製品を比べる前に「誰の、どの仕事を楽にしたいか」を決めると選びやすくなります。先に製品を見ると、機能の多さや価格で決めてしまい、入れたあとに使われなくなりがちです。

この記事では、選ぶ前に決めておくこと、合うツールの考え方、費用と期間の目安、よくつまずくところを、支援の現場から書きました。

私は、特定のツールをおすすめすることはしていません。どのツールの味方でもなく、選ぶ会社の側に立って書いています。

顧客管理ツールは、何から選び始めればいい?

製品の比較からではなく、今の仕事の流れを書き出すところから始めます。誰が、いつ、何をしているかが見えると、困っていることがはっきりして、必要な機能はかなり絞られます。

この書き出す作業を、業務棚卸と呼びます。進め方と、そのまま使える表は業務棚卸のやり方とフォーマットに載せました。

棚卸をすると、「こんなことをやっていたのか」が見つかります。二つの部署が、同じことを別のやり方でやっていた、ということもあります。ツールを入れる前なのに、仕事が楽になる会社が半分以上あります。

選ぶ前に、何を決めておけばいい?

決めておきたいことは5つあります。何のために入れるのか、誰が入力して誰が見るのか、今の顧客データの状態、他のシステムとのつなぎ、そして社内の体制と決め方です。

1. 何のために入れるのか

顧客を見たいのか、案件の進み具合を見たいのか、やりとりの履歴を残したいのか。似ているようで、必要な機能はまったく違います。何がどうなれば「うまくいった」と言えるのかも、測れる形で決めておきます。

2. 誰が入力して、誰が見るのか

ここが一番よく抜けます。仕組みとして整っていても、入力する人にとって面倒なら、データは溜まりません。「この人が、この場面で、このくらいの手間で入れる」まで描けているかどうかで、結果が変わります。

3. 今の顧客データはどうなっているか

同じ会社が何件も登録されている。名刺管理と請求のシステムに、別々の名前で入っている。この状態のままツールに移すと、ごちゃごちゃもそのまま移ります。データをまとめる作業については、名寄せとは何か、そしてなぜ終わらないのかに書きました。

4. 他のシステムとどうつなぐか

受注、請求、名刺管理、メール配信。顧客の情報は、すでにいくつもの場所にあります。どれとつなぎ、どれは別々のままにするのかを、先に決めます。

5. 社内の体制と決め方、予算

誰が担当するか、予算はいくらか、に加えて、どうやって決めるかを決めておきます。

業務を書き出す段階は、事実を集める作業なので、決めることはあまり出てきません。ところが設定の仕方や、機能と予算の取り合いの話になると、判断が次々に出てきます。そこで決まらずに止まる会社が、とても多いです。

「この人が言えば決まる」「この3人で話し合って決める」。それだけでも先に決めておくと、止まりにくくなります。

エクセルのままでいい会社と、ツールに移ったほうがいい会社は?

名刺がまだ紙のまま、連絡先がメールボックスにしか入っていない。そういう段階なら、まずエクセルに集めるところから始めるのがおすすめです。

パソコンのツールが苦手で、スマホもLINEくらいしか触らない、という方が多い会社もあります。そこでいきなりツールの話をしても、イメージが湧きません。「難しいことをやらされている」と感じてしまいます。

ですから私は、「まずエクセルから使ってみませんか」とお伝えしています。集めて、並べて、みんなで見る。それができてからツールを考えても、遅くありません。

移りどきの目安は、複数の人が同時に書き込むようになったとき、やりとりの履歴まで残したくなったときです。エクセルでまとめるときの注意は、エクセルで名寄せをする前に、知っておいてほしい2つのことに書きました。

自社に合うツールは、どう考えればいい?

合う・合わないは、事業のタイプ、使い方の段階、予算でほぼ決まります。「一番いいツール」はなく、会社によって答えが違います。

事業のタイプで考える

  • 新しいお客さまを増やしていく会社: 見込み客を集めるところや、MA(マーケティングオートメーション)が充実しているツールが合います。
  • 決まったお客さまを回る会社: すでに接点のある方との関係を深めたいはずです。営業管理や、問い合わせへの対応が手厚いツールが向いています。

ほかに見ておきたいこと

  • 自社で手を動かして作り変えられるか: できる人がいるなら、自分たちで形を変えられるツールも候補になります。ここはAIが出てきて、変わりつつあるところです。
  • 使い方の段階: まず記録を残すところから軽く始めたいのか。すでに使ってきた経験があって、仕組みとして回したいのか。
  • 数字をどこまで見たいか: 経営の数字を一画面で見たいのか、一覧が出れば足りるのか。
  • 予算: 予算で決まる部分も、かなりあります。

ツールのタイプと、よく名前の挙がるもの

  • 名刺から始めるタイプ: 名刺が人ごとに散らばっていて、まず一か所に集めたい会社に。よく名前が挙がるのは、Sansan、ホットプロファイルです。
  • マーケティングから入るタイプ: 問い合わせや見込み客を増やして、育てたい会社に。HubSpot、SATORIなどです。
  • 営業管理を作り込むタイプ: 営業の進み具合を仕組みとして回し、数字を細かく見たい会社に。Salesforceなどです。
  • 自社で作り変えるタイプ: 手を動かせる人が社内にいて、業務に合わせて形を変えたい会社に。kintoneなどです。
  • 幅広い業務をまとめて持つタイプ: 営業、メール配信、問い合わせ対応を一つにまとめたい会社に。Zohoなどです。
  • 業界に特化したタイプ: 保険代理店、建設、教室運営など、業務の形が決まっている会社に。業界ごとにあります。

業界に特化したツールは、作り変えはあまりききません。そのかわり安く、業務にぴったりはまれば、深く考えなくても使い始められます。満足されている会社も多いです。

この一覧は、あくまで入口です。実際には、話を聞いて状況に合わせて決めることになります。まずは情報を集めて、自分の会社がどこに当てはまりそうかを考えてみてください。

費用は、どこにかかる?

月々の利用料のほかに、データの移行、要件定義、テストに費用がかかります。月額だけで比べると、あとで想定より高くなります。

初期の設定やサポートの費用は、みなさん、ある程度覚悟されています。驚かれることが多いのは、次の3つです。

  • データの移行: 今ある顧客データを、新しいツールに移す作業です。一番驚かれます。
  • 要件定義: 何を作るかを決める作業です。「言えば作ってくれる」と思われがちですが、システムが大きくなるほど、業者の側が会社の事業や業務を理解していないと、いい提案は出てきません。言われたことだけを作っても、ツールの力は出ません。正直、作るよりもここに時間がかかります。
  • テスト: 作ったものが、実際の業務で動くかを確かめる作業です。

意外かもしれませんが、実際に「作る」作業は、全体のごく一部です。

「作ればいいだけなのに、なぜこんなにかかるのか」「騙されているのでは」というご相談を、よく受けます。ただ、私が見てきた範囲では、そこが不自然に膨らんでいた例は、あまりありません。

選ぶところから使い始めるまで、どのくらいかかる?

小さな会社なら、選ぶところまで約3か月です。50〜200人くらいの会社では、使い始めるまで1年半〜2年かかることが多いです。

50〜200人くらいの会社の、よくある進み方です。

  1. 業務棚卸(約半年): 今の仕事を書き出す
  2. RFPに書き起こす(約2か月): 業者に伝える依頼書をつくる
  3. 選考(約2か月): 業者から提案を受けて、選ぶ
  4. 要件定義・開発・テスト(7〜8か月): 業者と一緒につくって、確かめる

期間を一番左右するのは、今の業務がどのくらい整理されているかです。すでに書き出してある会社は、短くなります。使い始めるまで半年だった会社もあります。

次に効くのが、関わる人の数です。1人や2人でやっている仕事は切り出しやすいのですが、人が増えるほど見えにくくなり、整理に時間がかかります。

RFPのつくり方はRFPを作りたいに、提案の比べ方はベンダーの提案が比較できないに書いています。

選ぶ途中で、よくつまずくところは?

よく見るのは4つです。要件を全部「必須」にしてしまうこと、業者のタイプの違いを知らずに比べること、最後の役員プレゼンで話がひっくり返ること、補助金を待つ間に勢いが落ちることです。

要件を全部「必須」にしてしまう

RFPに、何でもかんでも「必須」で入れてしまう。そうすると、一番大事なことが見えなくなります。「そもそも、何のためのプロジェクトでしたっけ」が抜け落ちます。

要件を固めすぎると、合うツールがなくなり、全部を作り込みでカバーすることになります。結果として、自分たちを追い詰めます。

絶対にやらなければいけないことと、今動いている業務を伝える。そのうえで、ある程度は業者に委ねてみる。この姿勢が大事だと考えています。

業者のタイプの違いを知らずに比べる

業者には、開発の色が強いところと、営業の色が強いところがあります。良い悪いではなく、提案や説明のスタイルの違いです。

  • 開発の色が強いところ: 細かい業務まで理解して、拾ってくれます。ただ、「お金をかけて入れ替えたのに、前とあまり変わっていない」という着地になりがちです。
  • 営業の色が強いところ: 大きな絵を見せてくれます。役員へのプレゼンでは、とても響きます。ただ、現場の実務までは見えていないことが多いです。

同じ質問を投げても、同じ前提の答えは返ってきません。ですから、質問票を用意して、答えの基準をそろえます。点数をつけて、高いところに決める。それだけの話ではありません。

役員プレゼンで、話がひっくり返る

それまで積み上げてきた検討が、最後の役員プレゼンでひっくり返る。これは、ものすごく多いです。

役員の方からすれば、細かい業務が分からないまま、最後に「決めてください」と持ってこられます。その場で判断するしかありません。

私がいつもやっているのは、検討の最初から役員の方を巻き込むことです。予算を取るときだけではありません。定例の場で、1分でもいいので「いま、こう進んでいます」と伝える。「こう進めたいのですが、どう思いますか」と意見をいただく。

そして、いただいた意見に必ず返します。「ご意見をいただいたので、こうしました」。ほんの小さなことでもいいので、それを積み上げていきます。

これは、現場に対しても同じです。採用されなかったとしても、一度意見を聞いて、「それを受けて、こう進めています」と返す。すべての案件で、私がお伝えしていることです。意見が出たあとに何が起きるかは、本音が出ると、何が起きるかに書きました。

補助金を待つ間に、勢いが落ちる

補助金は、うまく使えば大きな助けになります。ただ、結果が出るまで始められない期間ができます。その間に、みんなの気持ちが下がっていくことがあります。

補助金が悪いのではなく、使い方次第です。勢いよく進めたいときは、補助金をどこに当てるか、始める時期をどこに置くかを、先に考えておきます。

よくある質問

CRMは、どれがいいですか?

会社によって違います。新しいお客さまを増やしたいのか、決まったお客さまとの関係を深めたいのか。まず記録から始めるのか、仕組みとして回したいのか。そこが決まると、候補は絞られます。

中小企業向けの顧客管理システムは、どれですか?

「中小企業向け」で探すより、事業のタイプと予算で探すほうが近道です。保険代理店、建設、教室運営など、業界に特化したツールがある場合は、それも候補になります。

kintoneでCRMはできますか?

できます。kintoneは、自分たちで形を作り変えられるツールです。ただ、何をどう管理するかは、自分たちで決める必要があります。

エクセルや無料のツールでも足りますか?

段階によります。名刺や連絡先をまず集める段階なら、エクセルで足ります。複数の人が同時に書き込む、履歴まで残したい、となったら、ツールを考える頃合いです。

選ぶのに、どのくらいかかりますか?

小さな会社なら約3か月、50〜200人くらいの会社では、使い始めるまで1年半〜2年が目安です。今の業務がどのくらい整理されているかで、大きく変わります。

外部に相談すると、何をしてくれるのですか?

私の場合は、今の業務と顧客情報の持ち方を一緒に整理し、決めることの順番を整えます。そのうえで、目的に照らしてツールを比べ、使い始めたあとのルールづくりまでご一緒します。詳しくはCRM・顧客管理ツールを選びたいをご覧ください。

ツールの相談から始まって、気づけば「自分たちは何屋なのか」を言い直している。そういう仕事を、私はしています。
中山 幸子

ほかの記事

  • 業務棚卸のやり方とフォーマット——システムを入れる前に、何をどこまで書き出すか

    業務棚卸とは、会社の中の仕事を書き出して、誰が何をしているかを見えるようにする作業です。進め方の5ステップと、そのまま使える業務棚卸表(Excel)を載せました。システムを入れる前の棚卸しで見るところ、きれいな建前しか出てこないときの聞き方も、支援の現場から書きました。

  • 本音が出ると、何が起きるか——自分事になる、要件が絞られる、続く

    CRMを選ぶ会議で「面倒くさいことはやりたくない」と言った営業の方が、いま一番入力しています。本音が出ると、ツールは自分事になり、膨らんだ要件は本質に絞られ、入れたあとも続きます。決め方を変えるのではなく、本音が出る場所を一つ足す。ツールの選定と定着に立ち会ってきた中で見てきたことを書きました。

記事一覧へ →

ツールの前に、話をしよう。

まずは一度、話してみませんか

「何から手をつければいいか分からない」の段階でかまいません。現状をうかがって、優先順位を整理するところからご一緒します。初回のご相談に費用はいただいていません。

お問い合わせはこちら