業務棚卸のやり方とフォーマット——システムを入れる前に、何をどこまで書き出すか
業務棚卸のやり方は、調べればすぐに出てきます。フォーマットも、たくさん配られています。
それでも、書き出した表が引き出しにしまわれたまま、という会社は多いです。
理由はたいてい2つです。何のために書き出すのかが決まっていなかった。 そして、書かれたことが、現場の本当のところではなかった。
今日は、進め方とフォーマットを先にお渡しします。そのうえで、この2つの話をします。
業務棚卸とは
業務棚卸とは、会社の中で行われている仕事を書き出して、誰が、何を、どのくらいの手間でやっているかを見えるようにする作業です。
日々の仕事は、それぞれの部署の中で、それぞれの人の手の中で回っています。全体を一枚の絵として見たことのある人は、ほとんどいません。社長も含めて、です。
それを一度、紙の上に出す。業務棚卸でやるのは、それだけです。
書き出したものは、仕事のやり方を見直すとき、引き継ぎをするとき、新しいシステムを入れるときの土台になります。
目的によって、書き出す細かさが変わります
最初に決めるのは、何のための棚卸しか、です。目的が違うと、どこまで細かく書くかが変わります。
| 目的 | 知りたいこと | 書き出す細かさ |
|---|---|---|
| 仕事のやり方を見直すとき | 知りたいのは、どの仕事にどれだけ時間を使っているか | 書くのは、業務の名前、担当、頻度、かかる時間 |
| 引き継ぎ・属人化をなくすとき | 知りたいのは、その人しか知らない手順は何か | 書くのは、手順、判断の基準、困ったときの聞き先 |
| システムを入れる前 | 知りたいのは、情報がどこで生まれて誰に渡るか | 書くのは、受け取るもの、渡すもの、渡す相手、例外 |
目的を決めずに「とりあえず全部」と始めると、細かさが人によってばらばらになります。ある部署は1行、別の部署は50行。並べても比べられません。
全部を同じ細かさで書く必要はありません。使い道が決まっていれば、書かなくていいところも決まります。
業務棚卸の進め方 5ステップ
- 目的と範囲を決める。 何のための棚卸しか。どの部門まで入れるか。システムを入れる前なら、そのシステムに関わりそうな部門を全部入れます。
- 本人に書き出してもらう。 手を動かしている人に、自分の仕事を書いてもらいます。上司が代わりに書くと、実際と違うものになります。
- 聞き取る。 書かれた表を見ながら話を聞きます。表に出てこなかった仕事、例外の処理、困っていることは、ここで出てきます。
- つなげて並べる。 部門ごとの表を、仕事の流れに沿って1本につなげます。誰から誰に何が渡っているかが、ここで初めて見えます。
- 使い道ごとに仕分ける。 そのまま続けるところ、変えられるところ、どうしても変えたいところ。この3つに分けます。
時間がかかるのは3です。そして、棚卸しの中身を決めるのも3です。ここは後半で詳しく書きます。
自社の業務は、みんな分かっている。そう思われるかもしれません。でも4までやると、「こんなことをやっていたなんて、全然知らなかった」という声が出てきます。
そして、ほぼ必ず見つかるものがあります。「この部署とこの部署で、同じことを、違う手順でやっている。」 これが2つか3つは出てきます。
私の場合は、ツールを入れる目的で棚卸しをしていただくことが多いです。それなのに、ツールをまだ何も入れていない段階で、業務の改善がいくつも進む。ご一緒した会社の半分以上で、これが起きています。
業務棚卸表のフォーマット
そのまま使えるExcelを用意しました。記入例のシートも付けています。
項目は13個です。はじめの7つが基本で、あとの6つは仕事の受け渡しを見るための列です。
| 項目 | 書くこと |
|---|---|
| No | 通し番号 |
| 部門 | 担当している部署 |
| 業務 | 大きなくくり(例:セミナーの運営) |
| 作業 | 具体的にやること(例:前日にリマインドのメールを送る) |
| 担当 | 役割か名前。「誰でも」は書かない |
| 頻度 | 毎日、週1回、月末、そのつど、など |
| 1回の時間 | おおよそで十分。分で書く |
| 受け取るもの | 何が届いたら、この作業が始まるか |
| 誰から | それを渡してくる人・部署・お客さま |
| 渡すもの | この作業が終わると、何ができあがるか |
| 誰に | それを受け取る人・部署・お客さま |
| 使っている道具 | Excel、紙、メール、システムの名前 |
| 例外・困りごと | いつもと違うときにどうしているか。面倒だと思っていること |
仕事のやり方を見直すだけなら、はじめの7つで足ります。システムを入れる前なら、あとの6つが本番です。
いちばん大事なのは、最後の「例外・困りごと」です。ここが空欄のまま返ってきたら、まだ本当のところは書かれていません。
システムを入れる前の棚卸しは、ここが違います
私がふだんお手伝いしているのは、CRM(顧客管理のツール)などを選ぶ前の棚卸しです。
このときに見るのは、一人ひとりの作業時間よりも、仕事と仕事のつなぎ目です。お客さまの情報が、どこで生まれて、誰の手を通って、どこに溜まるのか。
例をひとつ挙げます。マーケティングのチームがセミナーを開く、というよくある場面です。以前ご一緒した会社に、ここをとてもきれいに回しているところがありました。
- マーケティング: セミナーを企画し、申込ページを作って、メールで案内する
- マーケティング: 前日にリマインドのメールを送る
- マーケティング: 当日、出欠を取って開催する
- マーケティング: 終わったあとにお礼のメールを送る
- マーケティング: 参加者を見込みのお客さまとして登録し、定期のメールを送る
- インサイドセールス: 「一度聞いてみよう」となった人と、Zoomで30分ほど話す
- インサイドセールス: 反応が良ければ、営業の話を聞いてみませんかと声をかける
- 営業: それまでの記録を読んだうえで、訪問する
並べてみると、担当が変わるところが2か所あります。5から6、7から8です。
システムを入れてうまくいかなくなるのは、たいていこのつなぎ目です。セミナーに来た人の名簿はマーケティングのExcelにあり、相談の内容は担当者のメモにあり、営業は何も知らずに訪問する。この会社がきれいに回っていたのは、そこまでの情報をすべてCRMに溜めてから、次の人に渡していたからです。
棚卸しの表に「受け取るもの」「渡すもの」の列を作っているのは、このためです。自分の作業は書けても、次の人に何を渡しているかは、聞かれないと書けません。
ここまで見えると、ツールに何をさせたいかが、自分たちの言葉で言えるようになります。それを書いたものが、RFP(提案依頼書)です。棚卸しのあとの順番は、ツールに業務を合わせる、に私は賛成ですに書きました。
きれいな建前しか出てこないとき
表を配って、書いてもらう。ここまでは、どの会社でもすぐにできます。
難しいのはそのあとです。返ってきた表が、きれいすぎる。手順どおりに、何の問題もなく仕事が回っていることになっている。
そんなはずはないんです。「本当にそうですか」と感じたところから、聞き取りが始まります。
私がよく使う手を、いくつか書きます。
聞く相手を変える
まずは部門の上司の方に聞きます。そこで出てこなければ、ふだんその部門とあまり接点のない人に聞いてみます。たとえば情報システムの担当の方に、「実際のところ、どうなんですか」と。
ただ、聞き方によっては、かえって口を閉ざされることもあります。だから、いきなり本題には入りません。食事に行ったり、関係のない雑談から始めたりして、話せる間柄を先に作ります。
2〜3人で聞く
社員が何百人もいて、一人ずつは聞けない。そういうときは、2〜3人ずつ話を聞きます。一人だと構えてしまう人も、隣に同僚がいると「そういえば、あれ面倒だよね」と話し始めることがあります。
外の人が聞く
社内の人には言いにくいことも、外から来た人には話してくれる。これは結構あります。評価に関係のない相手だからです。
こちらから先に、本音を見せる
聞く側が、あえて少し愚痴っぽいことや、ネガティブな本音を先に出します。すると、相手も「実は」と話しやすくなります。
こういうカードを何枚か持っておいて、相手の様子を見ながら、どれを切るかを決めています。
私が直接動けないときは、会社の担当の方や情報システムの方に、このやり方をお伝えします。そして毎週、どこまで進んだかを一緒に確認しながら、現場の声を拾ってもらいます。聞いたあとに何を返すかについては、現場を巻き込めるかどうかの記事に書きました。
半年かける理由
私がご一緒することの多い50〜200人くらいの会社だと、システムを入れる前の業務棚卸には、半年ほどかけることが多いです。
長い、と思われるかもしれません。
いま分かっていることを文字にするだけなら、すぐにできます。話した内容をAIに聞かせて、そのまま書いてもらえば済みます。
時間をかけているのは、そこではありません。関係を作りながら、本当のところを引き出す。 そこに時間を使っています。
言葉を表面だけ拾った棚卸しと、本音まで届いた棚卸しでは、そのあとが変わります。ツールを選ぶときも、使い始めてからも、ここで聞いたことが全部の土台になるからです。
書かれた言葉が本音につながっているかどうか。「本当にそうですか」という引っかかりを、こちらの感覚がちゃんとつかめるかどうか。棚卸しでいちばん大事にしているのは、そこです。
よくある質問
業務棚卸は、どのくらいかかりますか
50〜200人くらいの会社で、システムを入れる前の棚卸しなら、半年ほどが多いです。業務の種類や複雑さ、関わる人数で大きく変わります。会社の側で進めていただく宿題に、どのくらい時間が取れるかでも変わります。
もっと短くできますか
できます。簡易的に進めて、1か月で終わらせる形もあります。ただしその場合は、会社の側も集中して取り組んでいただくことが前提です。
誰がやるのがいいですか
書くのは、その仕事をしている本人です。聞き取ってつなげる役は、外の人と一緒にやるのが、いちばん本質をとらえやすいと思っています。中にいると当たり前になっていることを、「それ、なぜですか」と聞けるからです。自社だけでやるなら、範囲を狭めないことだけは守ってください。
どこまで細かく書けばいいですか
目的によります。システムを入れる前なら、「誰から何を受け取って、誰に何を渡すか」が分かる細かさで十分です。操作の手順を一つずつ書く必要はありません。
AIに書かせてもいいですか
かまいません。いま分かっていることを表にするのは、AIがいちばん得意なところです。話した内容を聞かせれば、そのまま表にしてくれます。AIにできないのは、書かれていないことに気づくことです。そこは人が聞きます。
ポイント
- 業務棚卸とは、会社の中の仕事を書き出して、誰が何をしているかを見えるようにする作業です。
- 最初に決めるのは目的。 見直しなのか、引き継ぎなのか、システムを入れる前なのかで、書き出す細かさが変わります
- 進め方は5つ。 目的と範囲を決める、本人に書いてもらう、聞き取る、つなげて並べる、使い道ごとに仕分ける
- システムを入れる前に見るのは、仕事と仕事のつなぎ目。 誰から何を受け取り、誰に何を渡しているか
- つなげて並べると、同じことを違う手順でやっているところが2つか3つは見つかります。 ツールを入れる前に業務の改善が進む会社が、半分以上あります
- きれいな表が返ってきたら、まだ本当のところは書かれていません。 聞く相手を変える、2〜3人で聞く、外の人が聞く、こちらから先に本音を見せる
- 50〜200人くらいの会社で、半年ほどが多いです。 時間をかけているのは、書くことではなく、本当のところを引き出すことです
顧客管理ツールの選び方は顧客管理ツールを選びたいに、RFPの作り方はRFPを作りたいに、それぞれ書いています。
ツールの相談から始まって、気づけば「自分たちは何屋なのか」を言い直している。そういう仕事を、私はしています。
中山 幸子
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ツールの前に、話をしよう。
まずは一度、話してみませんか
「何から手をつければいいか分からない」の段階でかまいません。現状をうかがって、優先順位を整理するところからご一緒します。初回のご相談に費用はいただいていません。