顧客管理をエクセルで始めるなら、まず「顧客台帳」を1枚——項目は6つ、集め方でほぼ決まる
「顧客管理をエクセルでやりたい」と検索すると、作り方の記事がたくさん出てきます。ウィンドウ枠の固定、フォーム機能、重複チェック。どれも間違ってはいません。ただ、製造業や卸売業の中小企業で実際に顧客管理を始める場面に立ち会っていると、つまずくのはエクセルの操作ではありません。
つまずくのは、その前です。何を書くかが決まらない。誰が集めるかが決まらない。そして「できるときにやろう」と言ったまま、半年が過ぎる。
この記事では、エクセルで顧客管理を始めるときの「最初の1枚」を、顧客台帳と呼んで、その作り方を順番に書きます。項目は6つ。集め方にはコツがあります。そして、エクセルで始めるのは正しいけれど、ずっとエクセルでやるものではない、という話もします。
顧客台帳とは——ツールではなく、「誰と付き合いがあるか」を1枚にした表
顧客台帳とは、自社が付き合いのある会社と担当者を、一行に一件ずつ並べた表のことです。顧客名簿、顧客リスト、顧客管理表。呼び方はいろいろありますが、中身は同じです。この記事では「台帳」と呼びます。帳簿のように、会社に一つあって、そこを見れば全部分かる、という意味を込めています。
「顧客管理」と聞くとソフトの名前を思い浮かべる方が多いのですが、顧客管理は考え方です。「管理」という言葉に縛る意味はありません。分かるようにしておく、というだけのことです。そして、分かるようにしておくための最初の道具が、エクセルで1枚作る顧客台帳です。
この1枚があるかないかで、会社の見え方が変わります。「うちのお客さんは何社あるか」に、社長が即答できる会社は意外と少ないのです。
顧客台帳はソフトではなく、誰と付き合いがあるかを1枚にした表。まずはこれがあればいい。
項目は6つでいい
顧客台帳の項目は、次の6つで始めます。
| 列 | 項目 | 何を書くか |
|---|---|---|
| 1 | 会社名 | 正式名称。「株式会社」の位置と表記をそろえる(あとで効いてきます) |
| 2 | 担当者名 | 先方の担当者。同じ会社に3人いれば3行 |
| 3 | メールアドレス | その担当者のもの |
| 4 | 電話番号 | 同上 |
| 5 | 自社の担当営業 | このお客さんをうちの誰が見ているか |
| 6 | 最後に会った時期 | 日付まで。「2026/10/14」。名刺の日付やメールの日付を写すだけなので、負担は大きくない |
名刺に書いてあることが4つ、自社側の情報が2つ。それだけです。
入れたくなるけれど、最初は入れない項目
表を作り始めると、列を足したくなります。役職、部署、業種、売上、顧客ランク、備考。どれもあったほうがよさそうに見えます。でも、列が増えると埋まらないマスが増え、埋まらないマスが増えると、表そのものが信用されなくなります。最初の目的は、全社のお客さんが一度、1枚に乗ることです。そのためには、誰でも迷わずに埋められる列だけにしておくのがいちばんです。
役職と部門については、少し補足しておきます。役職や部門は変わるものです。名前のように固定の項目として扱うより、本来は「いつからいつまでその役職だったか」を複数のデータで持つのが理想です。役職の変化を追うことは、実はかなり大事です。ただ、エクセルで最初の一歩を踏み出す段階では、そこまでは追えません。入れるなら、上書きで更新する前提で、と割り切ってください。
列を足すのは、全員が乗ってから。最初の目的は「全社のお客さんが1枚に乗ること」。
集め方——誰が集めるかより、いつまでに集めるか
作り方の記事は、たいてい「項目を決める→データを入力する」と進みます。でも、実際の会社ではこの間に、いちばん時間のかかる工程があります。集める、という工程です。
顧客情報は、最初から一か所にはありません。営業一人ひとりの名刺入れ、メールボックス、自分用に作ったエクセル、スマホの連絡先。ここから出してもらって、初めて1枚になります。
集める役は、誰でもいい
集める役は、本当に誰でも構いません。総務の方がやっている会社もあれば、顧客管理を入れるプロジェクトのメンバーとして、DX推進室や情報システム部の方が担当している会社もあります。営業部長が窓口になって一旦取りまとめ、システム部門が表に落とす、という分担もよく見ます。会社の文化に合わせて、やりやすい体制で進めるのが一番です。
集め方も、それほど難しくありません。名刺を郵送で集める会社もあれば、各自がスキャンして送る会社もあります。一人100枚程度なら、スマートフォンで撮影してそのまま送ってもらう形で十分です。
社長の号令は、あったほうがいいではなく、要る
社長の号令だけで全部がうまくいくわけではありません。でも、号令をかけること自体は確実に大事です。「知らないうちに誰かが何かやっている」という雰囲気ではなく、「会社としての正式な取り組みである」とはっきり宣言すること。前向きな人だけが出すのではなく、一元管理だからこそ、全員に例外なく参加してもらう必要があります。社長も含めて、全員分を集めるのが本来の理想です。
いちばん大事なのは、期限を短く切ること
うまく進む会社とそうでない会社の差は、ここです。期限を短めに設定して、一気にやり切る。 短期間で集めてどんどんスキャンし、すぐに終わらせてしまう。一時的にスキャナーがフル稼働になっても構いません。
こんなにシンプルな話なのに、期限を長く取ってしまうと、だいたい途中でフェードアウトします。「できるときにやろう」「暇なときにやろう」というスタンスだと、ほぼ確実に失敗します。集める作業は、だれの本業でもないからです。本業でないことは、期限がなければ必ず後回しになります。
集める役は誰でもいい。ただし、社長が宣言して、期限を短く切る。この二つがないと、集まらない。
集めると必ず起きること——同じ会社が3行ある
各自から集めて1枚にまとめると、必ず起きることがあります。「株式会社A」と「(株)A」と「A株式会社」が、別々の行に並んでいる。同じ担当者が、営業二人の名刺入れから二回出てくる。メールアドレスが半角と全角で違う。
これは失敗ではありません。集めた証拠です。今まで別々の場所にあったものを一か所に置いたから、重なりが見えた。それだけのことです。
集める時点で、重なりを防ごうとしない
「複数人で会った先は、誰々の名刺を優先する」といった形で、集める時点で重なりをコントロールしようとする会社があります。気持ちは分かるのですが、そうすると回収が遅くなります。各自が「これは自分が出すべきか」を考え始めて、手が止まるからです。いちばん正しいのは、まず全部を集めることです。重なりは、集めたあとに整理する。その順番です。
実際には、先方の役職や部署が変わっていて、誰の名刺が最新か分からない、という問題も起きます。名刺の裏にもらった日付を書く運用をしている会社もあり、それができていれば新しいほうを残せばいい。できていなければ、分からないまま一旦載せてしまってください。次に会ったときに直せばいいことです。
この段階で大事なのは、正確さより前に進むことです。会社の文化にもよりますが、この記事では「進めるのが簡単ではない会社」を前提に書いています。そういう会社でこそ、最初のルールは少ないほうがいい。
重なりをまとめるのは、集め終わってから
この重なりをひとつにまとめる作業を、名寄せと呼びます。エクセルの段階では、完璧にやる必要はありません。会社名を並べ替えて、隣り合った行を見比べて、明らかに同じものを寄せる。その程度でいいです。ただし、ひとつだけ決めておいてください。会社名の書き方です。「株式会社」を前につけるか後ろにつけるかは、登記通り。略さない。これを決めておくだけで、あとの作業がまるで違います。
名寄せがなぜ終わらないのか、ツールを入れるときにはどうするのかは、別の記事に書いています。
同じ会社が3行あるのは、失敗ではなく集めた証拠。会社名の書き方だけ、先に決めておく。
台帳と接触履歴は分ける——エクセルには時間軸がない
顧客情報には二種類あります。属性情報と、接触履歴です。
属性情報は、名刺に書いてあること。会社名、担当者、連絡先。顧客台帳が持つのは、こちらだけです。接触履歴は、いつ会って、何を話して、次に何をすると約束したか。会社の資産は、本当はこちらです。担当が辞めたときに消えるのも、こちらです。
ではなぜ、台帳に履歴を入れないのか。エクセルは縦と横の二次元しかないからです。一行が一社の表に、「いつ何があったか」という時間軸を足そうとすると、横に列を足していくしかありません。「1回目訪問」「2回目訪問」「3回目訪問」。すぐに破綻します。別のシートを参照する仕組みを作ればできなくはありませんが、作った人にしか直せない表になります。
だから、エクセルの段階ではこうします。
- 台帳には、属性情報だけ。その代わり、全社分を必ず乗せる
- 履歴は、「最後に会った時期」の1列だけ持つ。最新の一点だけです
- もう少し持ちたければ、顧客ランク(A・B・Cのような大まかな区分)を一列足す。これも上書きでいい情報です
本格的に履歴を残したくなったら、それはエクセルの横軸でなんとかする話ではなく、データベースのツールに移すタイミングです。その話は次の節で。
台帳は属性情報。履歴は「最後に会った時期」の一点だけ。それ以上はエクセルの仕事ではない。
エクセルで始める。でも、ずっとは続けない
ここからは、私の意見です。
エクセルでまず始めてみること自体は、ものすごく大事です。「そもそも効果があるのか分からない」という段階でお金をかけることには、社内から反対意見が出やすいものです。だからまずはエクセルに情報を集め、一元化し、最新の履歴だけでも残しておく。その進め方でいいと思います。
ただし、エクセルのままずっと管理し続けることは、全くおすすめしていません。
エクセルのままでいい会社
顧客が10社程度と非常に少なく、1社1シートで履歴を残せば済む規模で、ずっと固定の取引先を巡回する営業スタイル。この条件がそろうなら、エクセルの運用はあり得ます。逆に言うと、新規のお客さんが増え続ける会社、営業が複数いる会社は、いずれ外に出ます。
移すタイミングは、向こうからやってくる
エクセルで始めると、使ううちに不便が見えてきます。外出先で見られない。誰かが開いていると編集できない。この前何を話したかを残したいのに、入れる場所がない。そうやって実際に使っていく中で、「どこでも見られるようにしたい」「もっと本格的に使いたい」という機運が高まる。エクセルで始めてから半年ほど経った頃に、現場から「もっとちゃんとした顧客管理システムを入れたい」という意見が出てくる。この流れが、いちばん理想的です。
社長が「ツールを入れる」と決めて上から落とすのではなく、使っている人たちが必要を感じて言い出す。その順番だと、入れたツールが定着します。逆の順番だと、半年でエクセルに戻ります。
そのときに効いてくるのが、最初の1枚
ツールに移すとき、最初に読み込むのがこの顧客台帳です。項目が6つに絞られていて、会社名の書き方がそろっていて、全社分が乗っていれば、移行は半日で終わります。列が30あって、半分が空欄で、同じ会社が3通りの表記であったら、移行の前に整理だけで数週間かかります。ツール選びは、そのあとのすべての根幹です。でも、その前の台帳が整っていないと、どんなツールを選んでも最初の半年を整理に使うことになります。
エクセルで始めるのは正しい。ずっと続けるのは間違い。移すときに効くのは、最初の1枚の質。
今日やるなら
この記事を読んで、今日中にできることは三つです。
- 6列の空の表を作る(下のひな形をそのまま使ってください)
- 自分の名刺入れから、10件だけ入れてみる。表が動く感触を持つ
- 「いつまでに、誰が、全員分を集めるか」を決めて、朝礼か会議で言う
三つ目がいちばん大事です。表は誰でも作れます。集まるかどうかは、今日それを口に出すかどうかで決まります。
エクセルのその先に進むとき、つまり「どこでも見られるようにしたい」が現場から出てきたときのツールの選び方は、こちらに書いています。
- 顧客管理ツールの選び方——選ぶ前に決めておく5つのこと
- 営業の属人化とは? 担当が辞めたときに会社が失うもの
- 導入の前に話を聞きたい方は、顧客管理ツールの選定へ
ひな形(6列)
1行目をそのままコピーして、エクセルかGoogleスプレッドシートに貼り付けてください。2行目以降は記入例(架空の会社です)。
| 会社名 | 担当者名 | メールアドレス | 電話番号 | 自社の担当営業 | 最後に会った時期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 株式会社山田製作所 | 山田 太郎 | t.yamada@example.co.jp | 03-0000-0000 | 佐藤 | 2026/10/14 |
| 株式会社山田製作所 | 鈴木 花子 | h.suzuki@example.co.jp | 03-0000-0000 | 佐藤 | 2026/07/02 |
シートの別の場所に、このルールを書いておくと迷いません。
- 会社名は登記通り。「株式会社」を略さない
- 1行1人。同じ会社に3人いれば3行
- 列を足すのは、全員分が乗ってから
- セルの結合と空行は作らない(あとでツールに読み込めなくなる)
ツールの相談から始まって、気づけば「自分たちは何屋なのか」を言い直している。そういう仕事を、私はしています。
中山 幸子
ほかの記事
- 営業の属人化とは? 担当が辞めたときに会社が失うものと、顧客情報を一元管理する順番
営業の属人化とは、お客さんの情報や商談の経緯が担当者個人の中にだけある状態のこと。担当者が辞めると「名刺を渡すだけ」の引き継ぎになり、会社の資産であるやり取りの履歴が消えます。「組織で管理しましょう」に反発が起きる構造と、営業本人の得から話す解消の進め方、ツールの前にExcelで始める一元管理の順番を、支援の現場から書きました。
- 業務フローの作り方——記号を覚える前に、話して、表にする
業務フロー図は、いきなり描かなくていい。まず1つの業務を口で説明して、話したことをAIに表にしてもらう。表が全部できてから、図にする。記号もルールも、あとで足りる。担当者の呼び名やタスクの重複など、AIの表で人が直すところ、最初から細かくしないコツまで、支援の現場から書きました。
ツールの前に、話をしよう。
まずは一度、話してみませんか
「何から手をつければいいか分からない」の段階でかまいません。現状をうかがって、優先順位を整理するところからご一緒します。初回のご相談に費用はいただいていません。